夫婦の形に迷ったとき、話せる誰かがいてくれた
「夫婦なのに通じ合えない」と感じた瞬間
長年連れ添ってきた夫との関係に、言葉にできない「心のすれ違い」を感じ始めたという吉田知子さん(仮名・60代)。静かに始まり、徐々に広がっていったその距離感について、こう語ってくれました。
会話をしているのに「わかってもらえない」
――知子さんは、いつ頃から夫婦の会話に違和感を覚えるようになったんですか?
「はっきり“これ”というきっかけがあったわけじゃないんです。日々の些細なやりとりの中で、『あれ、今もしかして全然伝わってない?』って思う場面が増えてきて…気づけば、話しても返事だけ。こっちの気持ちは伝わってないなって、なんとなく感じるようになったんです」
――相手の反応が薄いと、話す側もつらくなってきますよね。
「そうなんです。自分だけが一方的に喋ってる感じというか、“通じ合えてない”って実感があると、それだけで寂しさが募るんですよね」
同じ家にいても“心の距離”は遠かった
――一緒に暮らしていても、会話がないと余計に距離を感じてしまいますよね。
「そうなんです。隣にいるのに、まるで壁があるような感覚。何か話しかけても、テレビを見ているとか、スマホを見ているとか…会話をしていても心が通ってる感じがないんですよね。昔は笑い合ったり、意見を交わしたりしていたのに、今は“ただ生活を共にしてるだけ”の関係になってしまって」
――その“空気感”の変化には、いつ気づかれたんですか?
「定年後に夫がずっと家にいるようになってからですね。時間はあるのに、話すことがなくなってきて。かえって距離ができたというか、無言の時間が増えて、気まずさすら感じるようになりました」
相談しても「仕方ない」で終わってしまうつらさ
――夫婦間での相談ごとや気持ちの共有も、うまくいかなかったのでしょうか?
「そうですね…。私がちょっと気持ちの話をしようとしても、『もう歳なんだから』『今さらどうにもならないよ』って、すぐに“仕方ない”で片づけられてしまって。そう言われると、もう何も言えなくなるんです。『どうせまた聞き流されるだけ』と思って、だんだん話さなくなってしまいました」
――それは、心の中に言葉がたまっていってしまいますね。
「ええ、本当に。言葉にできない気持ちが増えていくと、どんどん自分の中に閉じこもってしまう。誰かと会話したい、でもパートナーとはもう深く話せない…そんな閉塞感が、つらかったです」
「私だけじゃなかった」とSNSで気づいたこと
夫婦関係に言葉にできないもどかしさを感じていた吉田知子さん(仮名・60代)。話す相手がいない寂しさに悩むなか、思いがけず出会ったのがSNSの“静かな場所”でした。
最初は「誰かの投稿を見るだけ」だった
――SNSを使い始めたきっかけは、何だったんですか?
「実はスマホも苦手で、SNSなんて若い人がやるものだと思ってたんです。でもあるとき、“同年代 夫婦の悩み”って検索したら、偶然あるSNSの掲示板が出てきて。そこに、“誰にも言えないけど…”って始まる投稿がたくさんあって、それを読むだけで『私だけじゃないんだ』って思えたんです」
――その時点では、まだ投稿などはされていなかった?
「はい、最初はただ読むだけ。自分のことを書く勇気はなかったけど、誰かの本音のつぶやきを見ているだけで、どこか心が落ち着いたんですよね。“自分の気持ちに近い人がこんなにもいるんだ”って、思えたのがすごく大きかったです」
同じような悩みを持つ人の言葉に支えられた
――見ていた投稿の中で、特に印象に残った言葉などありますか?
「『夫婦って何だろう』って、まさに私が思っていた言葉をタイトルにしてる日記があって。読んでいくと、まるで私の心の声を代弁してくれてるような内容だったんです。“悪い人じゃないけど、心が通じない”“毎日同じ部屋にいるのに、孤独を感じる”…読んでて涙が出ました」
――まるで自分の気持ちがそこにあったような。
「本当にその通りです。“私のことを見てたの?”って思うくらい、そっくりで(笑)。それだけで、少し救われた気持ちになれました」
「わかります」の一言が心をほどいてくれた
――ご自身でも投稿されたり、コメントをやりとりしたりするようになったのはいつ頃ですか?
「最初は怖かったけど、何日か読んでいるうちに“私も、少しだけ書いてみようかな…”と思って、日記にポツンと書き込んだんです。“話しても通じない夫に、今日も気持ちが伝えられなかった”って」
――それに対して、反応はありましたか?
「ありました。“わかります”って、たった一言。でもその一言がすごく心に響いたんです。『誰かがこの気持ちを共有してくれてる』『一人じゃない』って思えただけで、涙が止まらなくなって…。あの瞬間から、私の気持ちのあり方が少しずつ変わっていった気がします」
――SNSでのつながりが、心の閉塞感を少しずつほぐしてくれたんですね。
「はい。派手な交流じゃなくても、ただ“誰かが読んでくれるかもしれない”場所があるって、それだけで生きやすくなったように思います」
誰かと“夫婦のこと”を話せる場があるだけで救われる
「夫婦でいるのに、なぜこんなに孤独なのか」──そんな思いをずっと胸に抱えていた吉田さんにとって、SNSとの出会いは“心の避難所”のようなものだったと語ります。投稿するうちに、少しずつ、気持ちの整理がついていったといいます。
匿名だからこそ、本音が言えた
「実名じゃないからこそ、初めて言えたことがたくさんありました。“夫婦なのに、まるで他人みたいでつらい”とか、“話しかけても、心が返ってこない気がする”とか。友人にも、家族にも、絶対に言えなかったこと。でもSNSでは、“私もそうです”って返してくれる人がいる。名前も顔も知らないのに、こんなに通じ合えるなんて…驚きでしたね」
匿名性の高さは、誰にも見せられなかった“本当の気持ち”を言葉に変える力を持っていました。
「自分の気持ちを、自分の言葉で出すことが、こんなにも楽になれるなんて思いませんでした」
話すことで「気持ちが整理された」実感
「SNSに書いた日記を、あとから読み返すことがあるんです。“ああ、このとき私はこんなふうに感じてたんだな”って。すると、少し冷静に自分を見つめ直せるんです。“なぜこんなに苦しいのか”が、だんだん見えてきたような気がします」
誰かに話す──それがたとえ、文章を通じた“つぶやき”のような形だったとしても、感情を言葉にすることは、思考を整理する第一歩になります。
「今まで、“何がつらいのか”すらわからないくらい、ごちゃごちゃだった心の中が、少しずつ整っていく感覚がありました」
「夫婦の正解は一つじゃない」と思えた瞬間
「SNSでいろんな人の投稿を読むようになって、驚いたのが、“幸せの形が人それぞれ違う”ってこと。『寝室は別だけど、仲良しです』っていう人もいれば、『離婚はしてないけど、今は友人のような関係』っていう人もいる。“夫婦ってこうあるべき”みたいな固定観念が、自分の中にあったんだなって気づきました」
さまざまな夫婦のかたちを知ることで、自分の悩みが少しずつ「間違っていたわけではない」と思えるようになった吉田さん。
「“夫婦はこうでなきゃいけない”って思っていたからこそ、苦しかったんだと思います。でも今は、“うちはうちでいい”って、少しずつ思えるようになってきました」
SNSで得たのは“答え”ではなく、“視点の広がり”。そのことが、吉田さんの心を少しずつ軽くしていきました。
【図解】夫婦関係に悩む人がSNSで得た安心感とは?
「夫婦なのにわかり合えない」──そんな悩みを抱える中高年は、少なくありません。
本項では、読者アンケートの集計とあわせて、SNS利用による心理的変化や、利用者が感じた“安心できる理由”を3つの図で整理しました。
図1:パートナーとの関係で感じた“心のズレ”TOP5

アンケートで「夫婦関係において、どんな“ズレ”を感じたことがありますか?」と尋ねたところ、最も多かった回答は「気持ちを言っても伝わらない(62%)」でした。
次いで「会話はあっても中身がない(56%)」「価値観が合わないと感じる(49%)」「優しさが“無関心”に見える(43%)」「日常のすれ違いが積み重なっている(38%)」と続きます。
この結果から見えてくるのは、派手な喧嘩や明確な衝突ではなく、“静かな心のズレ”が積み重なっていく実情です。
一見「問題がないように見える」関係でも、当事者にとっては日々、心の溝が深まっている──その背景にこそ、多くの中高年の苦しさがあることが読み取れます。
図2:SNS利用前後での「安心感・共感」の変化
SNSを使い始める前と後で、「気持ちの安心感や共感を感じる機会は増えましたか?」という設問に対しては、以下のような傾向が見られました。

- SNS利用前:「安心感をほとんど感じていなかった(67%)」「共感を得られる機会がなかった(54%)」
- SNS利用後:「同じ思いの人に出会えた(69%)」「“自分だけじゃない”と感じた(62%)」「少しずつ気持ちが軽くなった(57%)」
この変化は、SNSという“知らない誰かとのつながり”が、思った以上に心の重荷を軽くする可能性を示しています。
特に「匿名で話せる」「話をさえぎられない」「反応を強要されない」という特徴が、対面では得られにくい“安心”を生んでいるようです。
図3:「話せるSNS」の特徴とメリット
最後に、「実際に安心して使えたSNSの特徴」として多くの方が挙げた共通項をまとめた表が以下です。
特徴 | メリット |
---|---|
匿名で参加できる | 本音が言いやすく、気持ちをさらけ出せる |
年齢層が近い | 共通の悩みや話題で話しやすい |
共感が中心の文化 | 否定されることが少なく安心して書ける |
時間に縛られない投稿 | 自分のペースでやり取りできる |
いいね等の強制がない | 無理に関係を深めなくてもよい気楽さがある |
このような設計が、気を使いすぎず、しかし一方で「ひとりではない」と感じられるつながりを支えていることがわかります。
中高年にとってのSNSは、派手に“盛り上がる場”ではなく、「自分の気持ちに耳を傾けてくれる誰かがいる場所」。
その存在こそが、悩みを抱える人の心をそっと支えているのです。
夫婦関係の悩みは「正解を探すこと」じゃない
人と比べることで苦しくなっていた
「うちはちょっと変かも…」——そう思ってしまう背景には、「理想の夫婦像」と比較してしまう無意識の癖があるのかもしれません。
「テレビに出る仲良し夫婦」や「ご近所の円満そうな家庭」と自分の家を比べて、なぜうちはこうなんだろうと落ち込んでしまう。特に、長年連れ添ってきた中高年層の女性ほど、そうした思いを抱えがちです。
SNSを通じてわかるのは、「他人の家庭も同じように悩みを抱えている」という現実です。比べる相手を“理想”から“現実の誰か”に変えるだけで、「あ、自分だけじゃないんだ」と思える瞬間が増えていきます。
誰かに「わかるよ」と言ってもらえることの意味
夫婦の問題は、簡単に解決できるものではないことがほとんどです。話しても変わらない、伝えても届かない…そんな壁にぶつかったとき、「わかるよ」と言ってくれる人の存在が、驚くほどの力になります。
面と向かってではなく、SNS上の誰かが書いた言葉でもいいのです。「私もそうだった」「あなたの気持ち、よくわかります」——そうした一言が、心の奥に積もったものをやさしくほどいてくれる。
解決策ではなく“受け止め”をもらうことが、何よりの支えになります。
SNSだからこそ得られる“否定されない安心感”
リアルな人間関係では、「それってあなたにも原因があるんじゃない?」などと、意見や否定が返ってくることもあります。ですがSNS、とくに中高年層向けの交流アプリや共通の悩みでつながる掲示板では、否定のない「聴いてくれる場所」があります。
匿名であること、すぐに返答を求められないこと、顔が見えないからこそ本音が言えること。それらすべてが、“安心できる場”を形づくっています。
悩みは、解決しなくても、話すことで和らいでいくもの。SNSは、その第一歩を踏み出すきっかけをくれる場所なのです。
話すことで見つけた「夫婦の距離感」との向き合い方
距離を置くのも、つながるのも自分のペースで
夫婦関係に悩んだとき、「どう関わればいいのか」が見えなくなることがあります。近づこうとしても相手が心を開かず、距離をとればとるほど冷たさを感じてしまう…。
でも、誰かに話しているうちに、「無理に合わせなくてもいい」という感覚が芽生えてくることがあります。
SNSで得られるのは、“他人とのつながり”だけではありません。自分の心の位置を見つけるヒントでもあるのです。
「今日は話しかけないでおこう」「今は自分の時間を大事にしよう」——そうやって、自分のペースで「ちょうどいい距離」を探ることも、夫婦関係を保つ一つの手段なのだと気づかされます。
気持ちを言葉にすることで、自分を守れるようになる
我慢を続けるほど、自分の感情がわからなくなることがあります。とくにパートナーとの間で「もう何も言っても無駄」と感じていると、自分の中にある本音さえ見えなくなってしまうことも。
けれど、SNSで少しずつ気持ちを綴ることで、「私はこう感じていたんだ」と整理できる瞬間が増えていきます。
それは“夫婦の問題を解決する”というより、“自分の気持ちを守るための言葉”として機能していきます。
誰にも言えなかったことを言葉にしたとき、ようやく自分自身の苦しさや悲しさと向き合えるのです。それは、自己防衛ではなく“自己理解”という形の大切なステップです。
誰にも話せなかった気持ちを、少しずつ外に出す習慣
SNSに投稿するという行為は、「誰かに聞いてもらうため」だけでなく、「自分の中に閉じ込めていた気持ちを少し外に出す」ことにも意味があります。
たとえば、「今日は少し気分が晴れました」と書くだけでも、自分の感情に名前をつけてあげることになる。
それが毎日の習慣になると、少しずつ自分を労わる視点が育ちます。
「自分の気持ちを表現する」というのは、年齢に関係なく必要な営みです。
そしてそれは、夫婦という関係においても、自分らしくあり続けるための軸になります。話すことで見えてくる“新しい距離感”が、これからの関係を優しく支えてくれるのです。
まとめ|「夫婦って何だろう」に悩んだあなたへ
ひとりで考えすぎなくていい
「夫婦って、何だろう?」
その問いに、はっきりとした答えがある人はほとんどいません。
どれだけ長く一緒に暮らしても、心が通じ合わないと感じることもあるし、言葉にできないもどかしさに疲れてしまうこともあります。
そんなとき、つい「自分が間違っているのでは」と考えすぎてしまうことも。でも、どんなに頑張っても“ひとりで完結する夫婦関係”なんてありません。
うまくいかないことがあって当たり前。悩むことも、迷うことも、恥ずかしいことではありません。
誰かの言葉に「救われる日」がきっとある
SNSなどでたまたま目にした投稿に、ふと心が軽くなることがあります。
「同じことで悩んでいる人がいた」「自分だけじゃなかった」——その実感は、孤独感をやわらげてくれます。
直接会ったこともない誰かの言葉が、身近な誰よりも響くことがある。それはきっと、“分かろうとしてくれた”気配がそこにあるから。
私たちは、たった一言の「それ、わかるよ」で立ち直れることもあるのです。
そんな「誰かの言葉」が、自分を救ってくれる日がきっと訪れます。
話せる場所を見つけることが、最初の一歩になる
大切なのは、「話せる誰かがいる」という実感です。
SNSという場所は、会ったことのない人とも、ほどよい距離感で気持ちを共有できる場。匿名で、安心して、自分の思いを言葉にできる空間がそこにはあります。
誰かと対面して話すのが難しくても、書き込みや投稿というかたちなら、少しずつ気持ちを出せるかもしれません。
「誰にも言えなかったこと」を言葉にできるだけで、心は軽くなっていくものです。
夫婦のかたちは人それぞれ。
でも、どんな状況にあっても——“話せる場所”があれば、きっと前を向けるようになります。
その最初の一歩として、あなた自身のペースで「声を出してみること」から始めてみませんか。