「誰かと話したい」気持ちを押し殺していた私がSNSで変わった日々
つながりを求める気持ちはあったのに
──60代女性・美智子さん(仮名)に聞く「話したい気持ち」とSNSとの出会い
「家族とも友達とも、なんとなく話さなくなっていました」
そう語るのは、都内在住の美智子さん(仮名・66歳)。
夫と2人暮らしで、お子さんはすでに独立。日々の生活は穏やかながら、どこか物足りなさを感じることもあったといいます。
家族にも友人にも「話せない」日々
──美智子さんは、以前から人と話すことが好きだったんですか?
「はい、若いころは職場でも近所でも、誰かと話すのが当たり前でした。でも、定年退職してからは一気に話す相手が減って。
夫とも必要なことだけ話すような感じで。LINEもあるけど、子どもたちは忙しそうだし…、連絡する理由がなくて」
──「ちょっと話したい」と思ったとき、誰かに連絡したことは?
「……ないですね。言い訳が見つからないっていうか、“急ぎじゃないのに連絡して迷惑かな”って。
本当は、今日あった些細なことを誰かに聞いてほしかったんですけどね」
誰かに話したくても、迷惑をかけたくなかった
──その気持ち、わかる気がします。「話したいけど、誰に?」という状態ですよね。
「そうなんです。実は何度も電話帳を見返したり、LINEの画面を開いたりはしてたんですよ。
でも、“今さら連絡してどうするの”って思って、閉じちゃう。
自分が寂しいからって、相手を巻き込むのは良くないんじゃないかって……」
──それって、“人とつながりたい”っていう気持ちを、自分で抑えていたんですね。
「そうかもしれません。“話したい”って、自分勝手なことだと思ってたんです。
誰にも迷惑かけたくない。でも、話したかった。矛盾してますよね」
ずっと一人で我慢していた“話したい気持ち”
──その後、どうやってその「話したい気持ち」と向き合ったんですか?
「あるとき、たまたまSNSを見ていたら、見知らぬ人の投稿で
“今日はなんとなく疲れた”ってつぶやきがあって。
その一文だけで、“あ、私もそう思ってた”って、涙が出そうになって。
それが“共感”っていうものなんでしょうね。
その投稿を読んで、“話していいんだ”って思えたんです。
理由なんかいらない。疲れたって言っていいんだって」
──その日が、美智子さんにとっての「再スタート」だったのですね。
「はい。初めて“いいね”を押したときは、緊張したけど、なんだか温かくて。
話さなくても、誰かの言葉に寄り添える。そんな場所があったんだって思いました」
「SNSって怖い?」と思っていた私が踏み出せた理由
──見ず知らずの人と話す“怖さ”と向き合った先に
「正直、“SNSって若い子がやるものでしょ?”って思ってました」
SNSで「誰かとつながる」ことに憧れながらも、どこかで“自分には無理”と決めつけていたという美智子さん。
そんな彼女が、ある日そっと「見るだけ」から始めた理由とは──。
若者向けのイメージに抵抗があった
──SNSに対して、最初はどんなイメージがありましたか?
「テレビやネットのニュースで“炎上”とか“ネットトラブル”とか、よく聞くじゃないですか。
それに、若い人が写真をいっぱい載せて“いいね”をもらうような世界。
60代の私が入り込んでいい場所とは思えませんでした」
──「自分には関係ないもの」と感じていたんですね。
「はい。“SNS=怖い・若者・派手”みたいなイメージが先にありました。
うまく使えなかったらどうしようっていう不安も大きかったです」
会わなくてもいい・恋愛じゃないSNSを知った
──それでも、使ってみようと思ったきっかけは何でしたか?
「たまたまテレビで“恋愛や出会い目的じゃなく、会話を楽しむSNSもある”って紹介してたんです。
“出会い系”じゃないSNSがあるなんて、知らなかったんですよ。
それなら少し安心かなと思って、検索してみたら…
“趣味の話でつながれる”とか、“会わなくてもいい”っていう言葉が並んでいて。
それがすごく、私には合ってる気がしたんです」
──恋愛や実際に会うことを前提にしないSNS、ですね。
「そうそう。“気軽に話せるだけ”っていう言葉にホッとしました。
誰かと話したいけど、恋愛ではない。
そういう気持ちにピッタリだったんです」
「見るだけ」から始めた安心な入り口
──実際に始めてみて、どうでしたか?
「最初は、見るだけでした。コメントも投稿も、怖くてできなくて。
でも、誰かの“今日の空がきれいだった”って投稿を読むだけで、心が少し温まるような気がして」
──誰かの何気ない言葉に救われたんですね。
「はい。“同じ気持ちの人が、ちゃんといるんだ”って感じられて。
しばらくして、自分でも小さく一言、つぶやいてみたんです。
そしたら、“わかります”ってコメントが返ってきて…。
もう、それだけで涙が出るくらい嬉しくて。怖いどころか、“ああ、ここは大丈夫な場所なんだ”って思えました」
──最初の一歩が、“見るだけ”でよかったんですね。
「はい。“無理に話さなくていい”って入り口があったから、踏み出せたと思います。
いきなり会話を求められていたら、無理だったと思います」
はじめての“ひとこと投稿”が変えてくれた
──たった一言のつぶやきが、思いがけないつながりを生んだ日
書いてみたのは「今日は疲れました」の一言
──“見るだけ”の状態から、初めて投稿してみたときのことを教えてください。
「本当に、なんとなく…だったんです。
その日はちょっと疲れていて、“今日は疲れました”って、それだけ。
写真もないし、特別なことも書いてない。
ただの“つぶやき”です」
──勇気がいりましたか?
「正直、指が震えました(笑)。
“誰も反応してくれなかったらどうしよう”とか、“変なふうに思われたら嫌だな”とか…。
でも“投稿”ボタンを押したあとは、妙にスッキリしてましたね」
思いがけない「共感」が返ってきた
──投稿に対して、反応はありましたか?
「しばらくして見たら、“私もです”ってコメントがついてたんです。
“今日は肩こりました”とか、“同じくバタバタでクタクタでした”とか…。
『わかります』『おつかれさまです』って。
それが、ものすごく嬉しくて…」
──顔も知らない人からの言葉が、心に届いたんですね。
「はい。誰かに“わかるよ”って言ってもらえたことが、何よりの救いでした。
しかも、長文じゃなくていい。スタンプみたいな一言でも、すごく温かく感じました」
その夜、心が少し軽くなった
──その日の気持ちは、今でも覚えていますか?
「はい、あの日の夜は、眠る前にスマホを見ながらちょっと泣きました。
“誰にも迷惑かけてないのに、ちゃんと誰かとつながれてる”って。
本当に不思議だけど、安心しました」
──“ひとこと投稿”が転機になったわけですね。
「大げさかもしれませんが、人生が変わったきっかけです。
SNSって、見知らぬ人と関わる場所…って思っていたけど、
“誰かと静かにそばにいられる場所”でもあったんだなって、気づけました」
【図解】中高年が「話したいのに話せない」と感じた理由TOP5
「誰かと話したいのに、話せないまま時間だけが過ぎてしまう」──。
そんな思いを抱えている中高年の方は、決して少数派ではありません。以下では、アンケート調査をもとに「話したいのに話せない」と感じる理由、SNSを使い始めてからの心の変化、そして“話せるSNS”の特徴を図解で紹介します。
図1:誰にも言えなかった理由
まずは「話したくても話せなかった理由」について、よく挙げられた上位5つの理由を可視化した結果です。

理由 | 割合 |
---|---|
心配をかけたくなかった | 58% |
弱音を見せたくなかった | 54% |
話す相手がいなかった | 49% |
話しても理解されないと思った | 46% |
忙しそうな家族に遠慮した | 42% |
上位に挙がっているのは、「気持ちはあるのに、相手を思いやるあまり言葉にできなかった」というパターンです。中高年ならではの“思慮深さ”が、逆に孤独感を強めてしまう一因となっています。
図2:SNSを始めてから感じた変化
次に、SNSを使い始めたことでどのような心境の変化があったかを、使う前と後で比較したグラフです。

感じた変化 | SNS利用前 | SNS利用後 |
---|---|---|
話せる相手がいると感じる | 21% | 63% |
気持ちを吐き出せる場所がある | 18% | 59% |
同じ悩みを持つ人に出会えた | 13% | 48% |
気軽に誰かとやり取りできる | 16% | 52% |
SNSを利用し始めたことで、「誰かと会う」必要がなくても、精神的なつながりや安心感を得られる人が増えています。とくに、「自分の感情を受け止めてくれる誰かがいる」ことが、多くの中高年にとって大きな救いになっているようです。
図3:話せるSNSの特徴まとめ
最後に、いわゆる“話せるSNS”が持つ特徴をまとめて紹介します。これらの特徴があることで、SNSが単なる若者の情報発信ツールではなく、中高年にとっても有効な「会話の場」になり得るのです。
特徴 | 内容 |
---|---|
実名不要・匿名参加可 | プライバシーを守りながら使える安心感 |
いいね・返信の強制なし | 無理のない交流スタイルが可能 |
同年代が多く在籍 | 話題や価値観が共有しやすい |
投稿・コメントがゆったり流れる | 焦らず自分のペースで参加できる |
会う前提がない | 恋愛や出会いを気にせず、気軽に話せる |
こうした特徴に支えられて、SNSは“見られるための場所”ではなく、“話すための場所”として再評価されつつあります。
SNSの中で「自分の居場所」ができていった
60代の美智子さん(仮名)がSNSに初めて触れたとき、それは“誰かとちゃんと話せる場所”を求めた末の選択でした。「誰にも話せない」「誰かと話したいのに…」という葛藤のなかで、ふと出会った“会話中心のSNS”は、最初はただの「読みもの」や「ながめるだけのもの」でした。
しかし、そこには思っていた以上にあたたかく、やさしいやり取りが流れていたのです。少しずつ言葉を投稿し、少しずつ反応をもらう。その積み重ねが、美智子さんにとっては「ここならいてもいいかもしれない」と思える居場所になっていきました。
話題がなくても、誰かとつながれる
SNSに書くことは、なにも立派なことじゃなくていいのです。
美智子さんが最初に投稿したのは「今日は疲れました」のひとこと。それでも、それに対して「お疲れさま」「わかります」という反応が返ってきたことが、大きな安心につながりました。
中高年になると、「何を書けばいいかわからない」「誰かに迷惑をかけるかも」と不安を感じる人も少なくありません。でも、日常のささいな一言こそが、“ちょうどいいつながり”のきっかけになります。
話題がなくても、気の利いた言葉じゃなくてもいい。ただ、そこに「今の気持ち」を置いてみること。それだけで、つながりの扉は少しだけ開きます。
距離感のある関係が、心をラクにしてくれる
SNS上の関係は、返信を急がなくてもいいし、誰かと無理に会う必要もありません。だからこそ、「話したいときにだけ話す」「読みたいときにだけ読む」ことができます。
美智子さんは、そうした“自分のペースでつながれる関係”に出会ったことで、「がんばらなくても人と関われるんだ」と気づきました。
この「ほどよい距離感」は、特に中高年の方にとってはとても大切です。リアルな付き合いでは気を遣いすぎてしまったり、話題に困ったりすることがあっても、SNSの中では“ちょっとだけ関わる”ことができる。
このラクさが、長く続けるための秘訣でもあります。
“誰かと話す”が日々の安心になる
SNSを続けるうちに、少しずつ「名前を覚える相手」ができたり、「毎朝挨拶を交わす関係」が生まれたりしていきます。
気づけばそれが、日々のリズムをつくる要素になっていくのです。
誰かと会わなくても、深く知り合わなくても、「今日も話せた」「聞いてもらえた」と思える場所があること。それが、心の安定につながります。
美智子さんにとっては、SNSが「話しても大丈夫」「ここにいていい」と思える場所に変わっていきました。
SNSで“自分の居場所”をつくるためのヒント
最後に、美智子さんの経験をもとに、同じように「話したいけど話せない」と感じている方へ向けて、居場所づくりのヒントをまとめます。
- 話題はなんでもOK:「今日は暑いですね」「朝からバタバタしてます」など、一言だけでも十分。
- 返信がなくても気にしない:見るだけの日もあっていいし、リアクションがなくても自分を責めなくていい。
- 同じ世代の人が多いSNSを選ぶ:中高年向けSNSでは、共通の生活リズムや価値観があるから、会話が自然に生まれやすい。
- 「読むだけ期間」も大切に:すぐに投稿しなくてもOK。まずは他の人の言葉に触れることから始めてみて。
再スタートには「気持ちを話せる場所」が必要だった
人生の後半にさしかかると、環境も人間関係も、そして心のあり方も、大きく変化していきます。
子育てが終わり、仕事をリタイアし、家族との関わり方も変わっていく中で、多くの中高年が「話す相手がいなくなった」と感じ始めます。
60代の美智子さんも、そんなひとりでした。長年続けてきた職場を離れ、夫との会話も減っていく。日々のなかで「おはよう」「おつかれさま」と言葉を交わす相手がいない。それでも、「この年齢で新しく人間関係なんて難しい」と感じていたそうです。
しかし、SNSを通じて少しずつ“気持ちを話せる場所”を見つけていったことで、美智子さんは「もう一度、人と関わってもいい」と思えるようになりました。
心の中の“声”を聞いてくれる場所
誰かに気持ちを話すことは、決して弱さではありません。
むしろ、日々の思いを出せる場所があるからこそ、前を向いて生きていけるのです。
SNSは、相手の顔が見えないからこそ「素直な気持ち」を書きやすい場所でもあります。
たとえば、美智子さんがある日投稿した「今日は夫に少しきつく言ってしまいました。自己嫌悪です。」という言葉には、すぐに「私もそういうことありますよ」「わかります、その気持ち」といったコメントが寄せられました。
誰かの共感を受けたことで、自分を責めすぎずに済んだという美智子さんの言葉が印象的です。
“再スタート”は、小さな会話から始まる
新しい一歩を踏み出すとき、派手な行動や劇的な変化は必要ありません。
大切なのは、“誰かと少しだけ会話する”という小さな習慣。
それが「今日も大丈夫だった」「また明日も話してみよう」と思える心の足がかりになります。
美智子さんにとっても、「たった一言の投稿」や「たまたま見かけた誰かのつぶやきへの反応」が、毎日のリズムを整えてくれる存在になっていきました。
居場所があるだけで、人は前を向ける
孤独や不安は、誰にでも起こるものです。
特に中高年期は、周囲の環境が大きく変化するため、心のバランスを崩しやすい時期でもあります。
だからこそ、日々の気持ちを「言葉にして出せる場所」があるかどうかが大きな鍵になります。
SNSという“会話の場”があることで、美智子さんのように「自分の気持ちを認めてくれる場所」「否定されない関係」に出会うことができる。
そしてそれが、「これからの人生をどう生きていくか」を考えるときの、確かな支えになるのです。
気持ちを話せる場所を持つということ
どんなに歳を重ねても、心が動く瞬間はあります。嬉しい日もあれば、つらい日もある。
そんなとき、ふと誰かに話しかけられる。自分の思いをそっと置ける。
その小さな「安心の場」があるかないかで、毎日の心の軽さは大きく変わります。
SNSは、“新しいつながり”というよりも、“話せる場”として使うだけでも十分です。
投稿しなくても、誰かのやさしい言葉に触れるだけでもいい。
まずは「心がほぐれる」ことを大事にして、自分のペースで、居場所を見つけてみてください。
まとめ|「誰かと話したい」を叶えるゆるやかな場所
「誰かと話したい」――この気持ちは、決して特別なものではありません。
それは、生きていれば誰しもが自然と湧いてくる、心の奥の小さな声。
けれど、中高年になるとその気持ちを表に出すことが、だんだんと難しくなっていくのも現実です。
「もう大人なんだから」「弱音を吐いちゃいけない」「迷惑をかけたくない」
そんなふうに思い込んで、気づけば誰にも話せなくなってしまった――。
今回登場した美智子さんも、まさにその一人でした。
ですが、SNSという選択肢を通じて、美智子さんは「話すって、こんなにも気持ちが軽くなるんだ」と実感できたといいます。
自分に合った「関わり方」が選べる安心感
今は、“無理に会わなくてもいい”“恋愛目的じゃなくてもいい”“投稿しなくてもいい”
――そんな「自分のペース」で関われるSNSが増えてきています。
誰かの何気ないつぶやきを読むだけ。
気が向いたときに「わかるなぁ」と返信してみるだけ。
少し慣れてきたら、自分も一言だけ投稿してみる。
このような「ゆるやかな関わり方」が、中高年の利用者に支持されているのは、まさに「無理をしなくていい」「傷つきにくい」「自分の意思で距離を決められる」からなのです。
“話せる居場所”は、誰にでも必要
心の中にある思いを、外に出すこと。
たったそれだけのことが、明日を前向きに生きる力になります。
「誰かと話したい」と思ったとき、その気持ちにフタをしないでください。
そして、誰かと深くつながろうとしなくても大丈夫。
“ちょっと誰かとやりとりする”“見守られている感じがある”
――そんな小さな関わりでも、日々の心は大きく変わっていきます。
今日からできる小さな一歩
もし今、「私にも話せる場所があれば…」と感じているなら、
まずはスマホやパソコンで、同年代が集まるSNSをのぞいてみてください。
誰かの言葉に共感したり、気軽に読んでみるだけでもOKです。
そこには、同じように「話したかったけど話せなかった」人たちがいます。
きっとあなたも、安心して“言葉を置ける場所”に出会えるはずです。
無理なく、自然に、少しずつ。
それが、これからの人生をあたたかくする、つながりの第一歩です。