はじめてSNSを使った60代男性の話

体験談・コラム

はじめてSNSを使った60代男性の話|“誰かと話したい”気持ちに変化が生まれた日

「話す相手がいない」日々に感じていたこと

定年を迎えたのは、60歳の春。
これまで仕事一筋で、朝から晩まで誰かと会話するのが当たり前だった日々が突然終わりを迎えた。肩書もなくなり、スーツを着ることもなくなった日々の中で、最初に感じたのは「静かすぎる朝」だったという。

「今までは『行ってきます』の後、職場に着けばすぐ誰かに話しかけられた。けど、今は“話しかけられる場”自体がないことに気づいたんです」

家族がいるとはいえ、日中はそれぞれの時間。話す機会がゼロではない。けれど、「何を話せばいいのかわからない」と感じる瞬間が増えていった。

テレビや新聞に目を通しても、それを誰かに話すことはない。
何かに感動しても、それを共有する人がいない。
たわいもない話題を気軽に口にできる場所がなくなった――それが、意外にもじわじわと心に重くのしかかってくる感覚だった。

■「孤独ではないが、孤立している気持ち」

この男性が話すように、「一人じゃない」のに「誰とも話していない」状態が続くことが、予想以上に心理的な負担になるという。

特に男性の場合、「人に弱音を吐く」「雑談だけの会話をする」ことに慣れていない人も多い。
そのため、言葉にできないまま、ふとしたときに「誰かと話したい」と思っても、それをどう行動に移せばいいのか分からず、ただ時間だけが過ぎていくことがある。

「話し相手がいない、って口に出すのが恥ずかしくてね。友達にそんな話をするのも情けない気がしたし、自分でも“そんな年じゃない”と思ってたんです」

■「SNSなんて若い人のもの」と思っていた

当然ながら、その時点ではSNSなどのツールの存在は知っていても、「自分には関係ない世界」だと思っていたという。

・操作が難しそう
・知らない人とつながるのが怖い
・そもそも、誰も自分の話なんて興味ないだろう

こうした“無意識のあきらめ”が積み重なって、スマートフォンを持っていても、SNSを使ってみようという気にはなれなかった。
だがその一方で、「もう少し誰かと話したいな」という気持ちは確かに胸のどこかに残っていた。


SNSを始めたきっかけは“ひとこと”の投稿だった

「誰かと話したい。でも、どうしたらいいかわからない」
そんなもやもやした気持ちを抱えたまま、ある日ふとスマートフォンを手に取った。ニュースアプリを見るためだったが、画面の一角に出てきたのが、シニア向けSNSの広告だった。

「“同年代の方とつながれる安心な場所”と書かれていたんです。まさに自分のための言葉のように感じてしまって、クリックしてみたのが最初でした」

■ 最初は、ほんの“ひとこと”でよかった

アプリをインストールしてみたものの、最初はプロフィールを入力するのにも緊張した。
年齢や住んでいる地域など、あまり個人情報を出したくなかったからだ。

それでも、ある日投稿欄に「今朝の空がきれいだった」とだけ書いてみた。
写真もなければ、特別な話題でもない。

「ほんのひとことだけど、それが“誰かとつながる”第一歩になるなんて思いもしませんでした」

■ 見知らぬ人から届いた「返信」の力

驚いたのは、数時間後に届いた返信だった。

「うちの空もきれいでした。朝は気持ちが切り替わっていいですよね」

何気ない、けれどとても温かいコメントだった。
“自分の言葉が届いた”という実感と、“知らない人でも会話ができる”という驚きが、心に残った。

SNSを始めるまでは、誰かと話すには“理由”が必要だと思っていた。
でも、SNSでは「今日はいい天気」「珈琲を飲んだ」など、日常の中のほんの小さな言葉が、誰かとの会話のきっかけになり得たのだ。

■ 文字だけの安心感と、見守られているような気持ち

映像でもなく、通話でもない。
文字だけの投稿だからこそ、ゆっくり言葉を選べる安心感があった。
“今すぐ返事をしなければならない”というプレッシャーもない。

「電話だと、沈黙が気まずいじゃないですか。でも、SNSの投稿やコメントは、相手のタイミングで読んでもらえる。あれが自分には合っていました」

知らない誰かが、そっと反応してくれる。
「見守られているような気持ち」が、SNSを続ける原動力になった。

■「誰かと話したい」は立派なきっかけになる

特別な趣味がなくても、友達がいなくても、話す内容が思いつかなくても――
“誰かに言いたい気持ち”があれば、それが十分なスタートだった。

SNSを始めた60代男性のこの経験は、「きっかけは小さくていい」ということを教えてくれる。
最初の“ひとこと”が、その後の会話やつながりにつながることもあるのだ。


「見てくれる人がいる」だけで救われた気持ち

SNSを始めた60代の男性にとって、「見てくれる人がいる」と感じられるだけで、日々の気持ちは大きく変わったという。

「最初は誰も見ていないと思ってた。でも、1つでも“いいね”や“コメント”がつくと、“誰かがこの言葉に目を通してくれたんだ”って思える。それだけで、今日は話せた気分になるんです」

■ 会話がなくても「反応がある」だけでつながりを実感

SNSのいいところは、必ずしも言葉のキャッチボールをしなくても、反応が返ってくること。
相手の表情が見えなくても、「見てくれてる」という感覚が伝わってくる。

・「いいね」がついたとき
・「わかります」という短いコメントが来たとき
・投稿に共感した人が自分の投稿を見に来てくれたとき

それらが重なると、「自分の存在はちゃんと誰かに届いている」と安心できるようになってくる。

「特別なことを書いたわけじゃないのに、“わかります”のひとことがあって。ああ、自分だけじゃないんだって思えた。それが、ほんとにうれしかったんです」

■ 共感されることよりも、“見守られている感覚”が大事だった

誰かと深く話し合うわけでもない。
すべての投稿に返信があるわけでもない。
それでも、SNSには「誰かが見ている」という“安心感”があった。

特に中高年になると、面と向かって自分の気持ちを話す機会が減っていく。
だからこそ、SNSのような“ほどよい距離感”のある空間で、自分を表現できることが貴重になる。

「話しかけられたら返す。自分ができる範囲でつながれる。そんな気楽さがいいんです。無理して会おうとか、電話しようとかじゃなくて、ただ“そこにいる”感じ」

■ 数字ではなく「自分の言葉が届いている」実感が嬉しかった

フォロワーの数が多いわけでもない。
毎日たくさんの反応が来るわけでもない。
でも、それでいい。

大切なのは、「今日、自分が感じたことを発信して、それを見てくれる人がいる」と思えること。
その“目に見えないつながり”が、この男性にとって大きな支えになっていった。

「何でもない一言でも、読んでくれる人がいると思うと書きたくなるんです。話すことがない、なんて思ってたけど、言葉はちゃんと中から出てくるもんだなって気づきました」


【図解】SNSを始めた60代の不安と変化

SNSを始める前、60代の男性が感じていたのは「技術的な不安」だけではありませんでした。
“知らない人とつながる怖さ”や、“自分が投稿しても誰も見てくれないかもしれない”という孤立感――。

しかし実際に使ってみると、少しずつ不安は和らぎ、自分のペースでやりとりを楽しめるようになっていったといいます。

「最初は不安しかなかったけど、“一言でも書いてみよう”と決めてから、世界が少しずつ広がっていきました」

この章では、SNSを始めた前後での心理の変化を図解でわかりやすくまとめます。


📊 図1:60代男性がSNSを始める前に抱えていた主な不安(複数回答)

不安の内容割合
操作が難しそう62%
怖い人に絡まれるのでは55%
知らない人と話すのが不安49%
誰にも読まれないかもしれない44%
投稿に何を書けばいいかわからない39%

📈 図2:SNSを始めてから感じた“安心ポイント”ベスト5

安心ポイント割合
知らない人でもやさしい反応が多い58%
自分のペースで投稿・返信できる53%
短文でも投稿できて気楽50%
反応がもらえることで気持ちが前向きに42%
会う必要がない距離感がちょうどいい40%

🟦 図3:SNSを始めたことで感じた変化(BEFORE → AFTER の比較表)

BEFORE(始める前)AFTER(始めた後)
誰とも話していない毎日だった一言でも反応があると心が軽くなる
SNSは若者のものと思っていた同世代も多くて安心して使えるとわかった
投稿する内容が思いつかなかった日々の何気ない話題が話の種になった
誰かに見られるのが怖かった見てくれるだけで救われることを知った

今、同じ世代に伝えたいこと

「自分には関係ない」「今さらSNSなんて」——。
かつての私もそう思っていました。スマホを持っていても、使うのは地図と天気予報くらい。
ましてや誰かに自分の言葉を届けるなんて、想像すらしていませんでした。

でも、ある日ふと思ったのです。
**「話す相手がいないのなら、自分から“つながるきっかけ”を探してみてもいいのかもしれない」**と。

最初に投稿したのは、ほんの一言でした。
「今日は晴れてて、庭の草木がきれいに見える」——そんな他愛のない内容。
それに対して「うちもです!」「写真見たいな」と返ってきた言葉に、心が温かくなりました。


無理に何かを始めなくてもいい

SNSを使っていると、たくさん投稿したり、写真を載せたり、コメントを返したりと、
“ちゃんとしなきゃ”と思うかもしれません。

でも、それは若い人のやり方。
私たちは、自分のペースで、自分らしく使えばいいのだと思います。

読むだけの日があってもいいし、しばらく離れても大丈夫。
大切なのは、「ここにいてもいいんだ」と思えることです。


SNSは“新しい友達”を作る場所ではないかもしれない

でも、同じような気持ちを抱えている誰かと出会える場所ではあります。

言葉をかけることで救われたり、誰かの投稿に共感したり。
それがたった数行のやりとりだったとしても、日々の景色が少し変わります。


「話す相手がいない」毎日からの第一歩に

もしこの記事を読んでいるあなたが、かつての私と同じように
“誰かと話したいけれど、どうすればいいのかわからない”と感じているなら。

どうか一度だけ、自分の言葉を投稿してみてください
誰かが反応してくれるかもしれませんし、何も起きないかもしれません。

それでも、「伝える」という小さな行動が、
思っている以上に自分自身の力になります。


最後に

SNSは“人と競う場所”でも、“見栄を張る場所”でもありません。
自分の気持ちに正直になれる、ささやかな居場所を見つけるための道具です。

あなたの言葉を待っている誰かが、きっとどこかにいます。
だから、どうか安心して。
一言からで、いいんです。

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