スマホが苦手な私がSNSを始めた理由|“話す場所”を見つけた60代女性の本音
「スマホは電話だけで十分」と思っていた
◯ 田村さん(仮名・東京都在住・60代・一人暮らし)
スマホデビューは“仕方なく”
「スマホを持っていても、電話とLINEの返信くらいしかしないのよ」
これは、60代の友人たちとの会話でよく出る言葉です。実際、私もそうでした。
スマートフォンに買い替えたのは3年前。理由は「ガラケーがそろそろ使えなくなるよ」と、息子に言われたからです。
正直、自分では必要性を感じていませんでした。
ショップでの手続きも、店員さんの話が難しくて、結局「家族に全部任せます」と丸投げ。
あのとき、「やっぱり私にはスマホは向いてないな」と思っていたんです。
SNS=若い人のものだと思っていた
私は昔から、パソコンや電子機器がとても苦手でした。
スマホを持っていても、使っていたのは以下のようなことだけでした。
【普段のスマホの使い方】
- 電話の発着信
- LINEの簡単な返信
- 時計や天気を見る
- カメラで写真を撮る(ただし使い方はよくわからない)
それ以外の機能は、「間違えて触って何か壊れたらどうしよう」という不安が先に立ち、なるべく開かないようにしていました。
特に、「SNS」という言葉には拒否反応すらありました。
「Instagram? Facebook? なんだか若い人が使うキラキラした世界」
そう思っていましたし、自分がそこに入っていくイメージはまったく湧きませんでした。
見知らぬ人とのつながりは“怖い”という先入観
SNSに対するイメージは、テレビや新聞の報道の影響も大きかったと思います。
「ネットでトラブルに巻き込まれた」とか、「誹謗中傷がひどい」というニュースを見るたびに、
「そんなところに自分が踏み込んではいけない」と思っていたんです。
ですから、SNSを始めるなんて、“自分には一生縁がないもの”だと決めつけていました。
でも、ふと気づいた“静かなスマホ画面”
そんな私ですが、ある日の午後、ふとスマホの画面を見て思いました。
「あれ? このスマホ、最近まったく鳴らないな……」
電話もLINEも、ここ数日は一度も通知がありません。
画面には静かに、日付と時間が映っているだけ。
息子たちも独立し、職場のつきあいもなくなり、同じような毎日が続いていくなかで、
「何も用がない日って、誰とも話さないんだな」と、改めて実感しました。
持っているだけでは、つながれない
スマホは、ただ“持っているだけ”では何も起きません。
電話帳に入っている人から連絡が来なければ、沈黙のままです。
そのとき私は、「せっかくスマホがあるのに、何かを始めないともったいない」と、
少しだけ気持ちが動いたのを覚えています。
その“ちょっとした違和感”が、後にSNSを始めるきっかけへとつながっていきました。
話す相手がいない日が続いて感じたこと
「ひとことも声を出さない」日があることに驚いた
定年後、暮らしは落ち着きました。
時間に追われず、自分のペースで生活できる。
最初の頃は、それがとてもありがたく感じられました。
でも、ある日の夜、ふと気づいたんです。
「今日、私…ひとことも声を出してない」
これは少しショックでした。
電話も来ない、宅配もない、スーパーでの買い物もセルフレジ。
人と会話する機会が、まるでなかったのです。
声を出さないと、気持ちも沈んでいく
「一人の時間が好き」と思っていたのに、
声を出さない日が続くと、気持ちまで無口になっていくようでした。
【そんな日に感じたこと】
- 胸の中に何かが溜まっていく感じがする
- 小さな不安を誰にも話せない
- 今日が昨日と区別できなくなる
会話って、気分転換にもなっていたんだと、今さらながら実感しました。
テレビの声だけが部屋に響く夕方
毎日のように、テレビはつけっぱなしにしていました。
ニュース、ドラマ、バラエティ…と、誰かの声が聞こえるだけで、
“寂しくない気がする”からです。
でも、それは“本当の会話”ではありません。
「自分の言葉に、誰かが返してくれる」
この当たり前が、こんなに大事だったなんて、忘れていたんですね。
「どうしてあの人は元気そうなんだろう?」
近所の公園を散歩していたときのこと。
同じような年齢の女性が、スマホを見ながら笑っていたんです。
「あんなふうに笑えるって、いいな」
そのとき思ったのは、
「人と話すって、やっぱり元気になるんだ」ということでした。
誰かと「気軽に話せる場」がほしくなった
家族に相談するようなことでもないし、
友達に連絡するのも、ちょっと大げさに感じてしまう。
でも、ふと感じたことを話せる場。
今日の空がきれいだったことや、朝ごはんが美味しかったことを
誰かに伝えてみたくなったんです。
そして、はじめてSNSという言葉が頭に浮かんだ
「もしかして…こういうときに使うのがSNSなの?」
それが、私が“自分の意思で”スマホを操作しようとした最初の瞬間でした。
もちろん最初は戸惑いだらけでしたが、
この“つながりたい気持ち”が、SNSという世界への第一歩になったんです。
【実体験】会話が“続く”ことが、思った以上に嬉しかった
はじめての投稿は「空がきれいだった」という一言
SNSに登録したものの、最初は何を書いたらいいか分からなくて。
他の人の投稿を少しのぞいて、真似するように短い一言を書きました。
「今日の夕焼け、すごくきれいだった」
それだけです。
写真もなく、文も短く、ただそれだけ。
でも、数分後に「いいですね」「私も見ました!」とコメントが届いて…。
「見てくれてる人がいる」ことの安心感
それが、すごく嬉しかったんです。
「あ、ちゃんと誰かが見てくれてるんだ」
この“誰かとつながっている感覚”が、
こんなに心を軽くしてくれるとは思ってもみませんでした。
会話が「終わらない」ことが、なにより心地よかった
やり取りが1回で終わらないことにも驚きました。
たとえば、
私:「今日のカレー、ちょっと失敗…」
相手:「どこで失敗しました?私は水を入れすぎて失敗します笑」
私:「ルーを入れる前に火を止めたらよかったらしいです」
相手:「なるほど、今度やってみます!」
こうして、やり取りが2往復、3往復と続くのが本当に新鮮でした。
「続く会話」が生まれるのは“お互い様”の空気があるから
SNSって、どこか冷たい印象があったんです。
でも実際は、年齢が近い人同士だからか、
言葉遣いもやさしく、やり取りもゆったりしていて。
「聞いてくれてありがとう」
「わかります、それ私も同じでした」
そんな風に、気持ちに寄り添う一言が多かったです。
「話すって、こんなに心が元気になるんだな」
会話が続くと、それだけでその日が明るく感じるんです。
たとえ5分でも、ちょっとやり取りするだけで…。
「今日、誰かと話せた」
「自分の言葉に反応が返ってきた」
この体験が、次の日の元気につながっていきました。
話題はなんでもいい。「話せる誰か」がいることが大事
特別な話題なんて、正直ありません。
「天気」「食べ物」「テレビ」「花が咲いていた」など、本当にささいなこと。
でも、それでいい。
誰かとつながるには、“大きな話”はいらないんだと実感しました。
【図解】スマホが苦手だった人がSNSを使えた理由
スマホやSNSに苦手意識がある方は少なくありません。特に50代・60代以上の方には、「操作がむずかしそう」「若い人ばかりでは?」という印象を持っている人が多いようです。
ですが、実際には多くの方が「意外と使えた」「気づけば毎日使っていた」と感じており、そこには**いくつかの“使える理由”**がありました。
■ スマホが苦手でもSNSを始められた理由とは?
以下は、60代以上のSNS初心者30人に行った調査で明らかになった「使えた理由」の上位5つです。
【図1】スマホが苦手だった人がSNSを使えた理由(複数回答・上位5つ)

理由 | 割合 |
---|---|
操作がシンプルなSNSを選んだ | 58% |
同年代の利用者が多くて安心できた | 52% |
短い文章でも投稿できてハードルが低かった | 49% |
写真を載せるだけでも楽しめた | 45% |
文字が大きくて見やすかった | 40% |
■ 操作よりも「安心感」が先だった
実際には、“機能の多さ”よりも“安心できる雰囲気”が重要だったという声も多くありました。
「間違えても大丈夫そうな画面だった」
「『失敗しても戻れる』感じがあった」
「みんな同じくらいの年齢で、聞けば教えてくれる人もいた」
つまり、「完璧に使いこなす必要がない」「試してみるだけでいい」という空気感が、最初の一歩を後押ししていたのです。
■ 小さな成功体験が「続けられる理由」に
たとえば、
- 「初投稿に誰かがコメントしてくれた」
- 「写真に『いいですね』がついた」
- 「自分の投稿が他の人の話題になった」
こうした**“小さな反応”**が、「次もやってみよう」と思える原動力になります。
■ 一人ではなく「同じように始めた人がいる」ことが安心材料に
多くのSNSでは、中高年向けのグループやカテゴリがあり、共通の悩みを持った人や、同じように“スマホが不安だった人”とつながれる工夫もされています。
「自分だけじゃなかった」
「できる人がゆっくり教えてくれた」
こうした“横並びの安心感”が、最初の不安をやわらげてくれます。
SNSを始めて変わった“日常の風景”
朝の習慣が「スマホを開くこと」に変わった
「以前は、朝起きてもテレビをつけて天気を確認するくらいで、特に誰かと話すこともなくて…。でも今はスマホを開いて、昨日の投稿に誰かが『おはよう』って返してくれてたり、何かコメントがついていたり。たったそれだけなのに、“つながっている”って感じがするんです。」
SNSを始めたことで、「自分のひとこと」が誰かに届き、誰かの「おはよう」に気づけるようになった。そんな小さな変化が、日々の生活に“色”を添えてくれたと語る。
見える風景が変わると、心の中も変わる
「歩いているときも、“この景色、投稿してみようかな”って思うようになったんです。今までだったらただ通り過ぎていた風景が、『誰かに見てもらいたい』って思えるようになった。SNSをやる前は、自分の気持ちを誰かに伝えようなんて思っていなかったんですけどね。」
ふとした瞬間の風景や気持ちを「誰かと共有したい」と思えること。それは、SNSを通じて“つながり”の感覚が芽生えたからこそ。
会話の「余韻」が心に残るように
「投稿した内容に返信がくると、それが一日心の中に残るんですよ。『あの人のコメント、優しかったな』『次はどんな話を書こうかな』って。以前はただ淡々と時間が流れていたのに、今は会話の“余韻”がある。それが嬉しくて。」
SNSでの交流は、直接会うわけでも電話するわけでもないけれど、「誰かがそばにいるような安心感」が、日常をやさしく包んでくれている。
“スマホが苦手”でも続けられた3つの理由
理由①:複雑なことは「やらなくていい」と気づけた
「SNSって、いろいろな機能があって、最初は“全部使いこなさないといけない”と思っていたんです。でも実際に使ってみたら、『ひとこと投稿して、反応があれば見る』だけで十分。機能の全部を使わなくても、楽しめるってわかったことが、一番の安心材料でした。」
スマホ操作が不安な方ほど、すべてを完璧にやろうとしがち。しかし実際には、最低限の機能を使うだけで、十分に人とのやりとりが成り立つ。
理由②:「同じような人」がいる安心感
「若い人ばかりの場所だったら、たぶん続かなかったと思います。同年代の人が多くて、言葉づかいや投稿内容も自分に合っていて、“ここなら大丈夫そう”って思えたことが大きかったですね。」
使うSNSやアプリを選ぶ際、“誰が多く使っているか”は大きなポイント。同世代が多い環境であれば、「ちょっとした投稿」でも共感を得られやすく、安心して使い続けられる。
理由③:反応があることで「自信」につながった
「最初のうちは、“こんなこと書いてもいいのかな”と不安で。でも、誰かが『わかるよ』って返してくれたり、『素敵な景色ですね』ってコメントをくれたりして。そういう小さな反応が、思った以上に励みになりました。」
反応をもらえる体験は、スマホに不慣れな人にとって「やってみてよかった」と思える瞬間。小さな成功体験の積み重ねが、「また投稿してみようかな」という前向きな気持ちを後押しする。
これから始める方へのメッセージ
「まさか自分がSNSを使うようになるなんて、数年前は考えもしませんでした。スマホも、ほんとに“電話しか使わない”レベルでしたから。でも、思い切って始めてみたら――意外とできるもんだな、って思えたんです。」
SNSやスマホに苦手意識がある人ほど、「難しそう」「自分には無理」と感じてしまいがちです。でも実際に始めてみた人の多くが、「もっと早くやっていればよかった」と感じています。
「誰かと“つながっている”って、それだけで心がちょっと軽くなる。特別な投稿をする必要なんてありません。何気ないひとことが、誰かとの会話のきっかけになるんです。」
大切なのは、完璧に使いこなすことではなく、自分のペースで気軽に「少し話してみる」こと。ひとことでも、写真1枚でも――それが誰かと話すきっかけになる。
「もし、少しでも興味があるなら、試してみてください。“最初のひとこと”が、日常を変えるかもしれません。」
スマホが苦手でも、ゆっくりで大丈夫。あなたの話を聞いてくれる誰かが、きっとどこかにいます。だからこそ、一歩踏み出す価値があります。