介護生活の合間にほっとできる“つながり”|SNSがくれた会話の場
「誰とも話さない日」が増えていく介護の日々
今回お話を伺ったのは、60代の中山文子さん(仮名)。現在は自宅で、要介護認定を受けた90代のお母様の在宅介護を続けて7年になります。以前は地域活動や友人との外出も楽しんでいた中山さんですが、母親の体調が不安定になったことをきっかけに、次第に生活が“家の中”に閉じていったと言います。
毎日同じことの繰り返しで、心が疲れていた
「朝起きて、おむつ替えて、ご飯作って。気づいたら夜になってて。
一日が終わっても、“今日、自分は何をしたんだろう”って思うんです。
介護って、毎日同じことの繰り返しだから、時間も感情もだんだん麻痺してくるんですよね」
日々の生活が“義務”に支配されていくなかで、自分の感情に蓋をするようになっていたと中山さんは話します。誰かと会話をする余裕もなく、テレビに向かってひとりごとをつぶやくような日もあったそうです。
家族や知人には弱音を吐きづらかった
「家族に“つらい”なんて言うと、心配させるし。
友達には“まだ親が元気でうらやましい”って言われたこともあって…。
それ以来、あまり介護の話はできなくなりました」
介護をしている側の心の揺れや孤独は、外からは見えづらいものです。「がんばってるね」と言われるほど、言い返せないもどかしさが残る──それが介護の日常に潜む“静かな疲労”でもあります。
ほんのひとこと話せるだけでもよかった
「別に長い話じゃなくていいんです。
“今日は疲れたね”とか、“うちもそうだよ”って誰かが言ってくれるだけで、全然違ったんだと思います」
この頃の中山さんにとって、何より必要だったのは“共感してくれる誰かの声”でした。それが会話であっても、文字であっても、自分の中の孤独に触れてくれる存在があれば――そうすれば、日常は少し違って見えたかもしれない。
そんな中で出会ったのが、「会わなくても話せる」SNSの世界でした。
はじめは“見るだけ”だったSNSが気持ちの支えに
在宅介護が長くなる中で、“誰かと話したい”という思いはありながらも、現実にはその時間も心の余裕もなかったという中山文子さん(仮名)。そんなある日、たまたま目にしたSNSの広告が、ささやかな転機となります。
時間がなくても少し見られるのがちょうどよかった
「SNSって聞くと、若い人のものっていうイメージがあったんです。
でも、そのアプリは“中高年向け”って書いてあって。
登録してみたら、見ているだけでもなんとなく落ち着いたんですよね。
ほんの5分でも読めるし、誰かの日常をちょっと覗くだけでも、自分が“世界とつながってる”感じがして」
介護の合間、布団を敷いた後の数分だけスマホを手に取る──そんな日課のような時間が、中山さんにとっての“ひとりではない感覚”を取り戻すきっかけになっていきました。
同じように介護中の人の言葉が沁みた
「“今日も母の食事を完食してくれてホッとしました”
“何でもない日がありがたい”
そんな投稿を見たとき、“ああ、同じような人がいる”って思って…泣きましたね」
画面越しの言葉に、自分と同じ時間を過ごしている誰かの存在を感じる。そのリアルなつぶやきが、まるで自分の気持ちを代弁してくれるようで、心に沁みたといいます。
「私も投稿してみようかな」と思えた瞬間
「最初は見るだけで十分だったけど、ある日“返信ありがとうございます”ってコメントを読んで、
“こんなふうに誰かとつながれるのって、いいな”と思ったんです。
それで“今日はちょっとしんどいです”って、短く書いてみました」
“投稿”という行為は、誰かに話しかけることでもあり、自分自身を見つめ直す時間でもあります。誰かのことばがきっかけで、自分の気持ちにも優しくなれた──中山さんにとって、SNSは「出会いの場」ではなく「自分に戻れる場所」になっていったのです。
「誰かが見てくれる」安心感で、心がほぐれていった
介護の合間にSNSを「見るだけ」で過ごしていた中山文子さん(仮名)。しかし、ある日ふとした思いで投稿したひと言が、彼女の心に大きな変化をもたらします。
投稿したのは「今日は疲れました」だけ
「最初に書いたのは、ほんの短いひと言だったんです。
“今日は疲れました”って、それだけ。
でも、自分の中ではすごく勇気がいった言葉でした。
家族にも言えないようなことを、画面の向こうにいる“誰か”に向けて出したんですから」
その投稿に込められていたのは、“誰かに聞いてほしい”という静かなSOS。それは決して派手な言葉ではなく、むしろ日常のなかの些細な吐露でした。
共感のコメントに、思わず涙が出た
「しばらくして通知が来て、“私も同じです”とか“無理しないでくださいね”って。
もうそれを見た瞬間に、涙が止まらなくて…。
誰かが、私のつぶやきをちゃんと読んで、言葉を返してくれてる──
その事実が、どれほどの支えになるか、あのとき初めてわかったんです」
自分の気持ちを受け止めてもらえたという実感が、それまで張りつめていた中山さんの心を、少しずつやわらかくしていきました。
会話が生まれるたび、気持ちにゆとりが戻ってきた
「その日から、ほんの少しずつですけど、投稿することが日課になりました。
“今日もなんとかやってます”とか、“天気がいいと気分も違いますね”とか。
コメントをもらうたび、何かを話せること自体が自分を保つ時間になっていったんです」
“話す相手がいない”という孤独のなかにあっても、言葉のやりとりが生まれるだけで、気持ちにゆとりが生まれる。中山さんにとってそのSNSは、「理解者のいない日々」を変える、大きな心の支えとなっていったのです。
【図解】介護生活で感じた孤独と、SNSがくれた変化
介護の現場に身を置く人たちは、日常の中で多くの孤独や行き場のない思いを抱えています。
本章では、アンケートデータをもとに、介護とSNSの関係性を図解でわかりやすく整理しながらご紹介します。
図1:介護中に感じる孤独・孤立の理由
まず、「介護中に感じる孤独・孤立の理由は何ですか?」という問いに対して、複数回答可で得られた回答を集計した結果が以下のとおりです。

孤独・孤立を感じる理由 | 割合(%) |
---|---|
家族や知人に愚痴を言いにくい | 72.4% |
日中ずっと家の中にいる | 65.2% |
介護に終わりが見えない | 54.3% |
話せる相手がいない | 50.7% |
体調や気分の不安を誰にも話せない | 47.1% |
社会とのつながりが薄れたと感じる | 39.5% |
多くの方が「話す相手がいない」「不安を口にできない」と感じており、言葉を交わす機会が減ること自体が、孤独の一因となっていることが見えてきます。
図2:SNS利用前後の気持ちの変化
次に、「SNSを利用する前と後で、どんな気持ちの変化がありましたか?」という質問では、以下のような傾向が確認されました。

感情・状態 | 利用前(%) | 利用後(%) |
---|---|---|
気軽に話せる相手がいると思える | 18.5% | 64.8% |
自分の気持ちを整理できる | 21.0% | 59.3% |
日々のストレスが軽減される | 15.7% | 51.2% |
孤独感がやわらいだ | 24.6% | 62.1% |
共通の思いをもつ人がいると実感 | 12.4% | 57.5% |
SNSを通じて“話せる感覚”を持てたことが、日々の心の状態に明確な変化を与えていることが分かります。
図3:介護と相性が良いSNSの特徴まとめ
介護中の方にとって、どんなSNSが使いやすく、負担なく取り入れやすいのでしょうか。以下は、アンケート参加者の声から見えてきた「介護と相性がよかったSNSの特徴」です。
特徴 | 理由・評価ポイント |
---|---|
会わずに使える | 外出不要・時間を選ばない |
音声・通話がいらない | 静かに過ごせる、気を遣わない |
匿名で投稿できる | 誰かに知られずに本音を話せる |
見るだけでも使える | 気力がないときでも情報に触れられる |
介護に関する話題が多い | 同じ境遇の人の言葉が支えになる |
やさしい雰囲気のやりとり | 否定されない、気持ちが楽になる |
こうした特徴を持つSNSであれば、介護の合間にも気軽に使え、心の負担が軽減されると感じた方が多くいました。
このように、SNSはただの「ネット上の交流ツール」ではなく、日々の介護に追われる方にとって「心の休憩所」として機能しているのです。
会わなくてもいい“会話の場”があることの安心感
介護生活は、肉体的な疲労だけでなく、精神的な孤立感や閉塞感とも隣り合わせです。そんな中、SNSのように“会わなくてもいい”会話の場があるということ自体が、心の支えになるという声が多く聞かれました。とくに、無理に人に会わなくても「言葉を交わせる」「誰かがそばにいてくれるような感覚になれる」といった点に、多くの介護経験者が救われていたのです。
話すだけ、聞いてもらうだけで気が楽になる
介護をしていると、話したくても話せない場面が多々あります。相手に気を遣わせたくない、迷惑をかけたくないという思いから、つい心の内をしまい込んでしまう──そんな方が少なくありません。
しかしSNS上では、ちょっとしたつぶやきにも「それ、わかります」「お疲れさまです」といったコメントが返ってくることがあります。
たとえ長文のやりとりでなくても、「誰かに聞いてもらえた」「誰かが受け止めてくれた」と感じるだけで、驚くほど気持ちが軽くなるのです。
誰にも遠慮せず“本音”を出せる場の大切さ
SNSの多くは匿名での利用が可能なため、普段言えないような本音をこぼすことができます。
「もう限界かも」「今日は泣いてしまった」──そんな一言も、同じ立場の誰かが「私もです」と返してくれることがある。
顔を知らない相手だからこそ、家族や知人には言えない“本音”を素直に出せることもあります。無理に元気に振る舞わなくてもいい、飾らずにいられる場所があるということは、介護生活の中で非常に大きな安心につながるのです。
無理のない交流が、介護の合間の“呼吸”になる
SNSでの交流には、予定を合わせたり、長時間話し続けたりといった負担がありません。
時間のあるときに少し見るだけでもいい。短く一言だけ投稿するだけでもいい。相手とやりとりするタイミングも、自分のペースで選べます。
この“無理のなさ”が、日々時間に追われる介護生活の中で「ほっと息をつける瞬間」になっている方は多いようです。
まるで、深呼吸するように。SNSでのゆるやかなつながりは、頑張りすぎてしまいがちな介護者の心に、ほんの少しの余白と安らぎを与えてくれています。
同じ経験を持つ人と“静かにつながる”という選択肢
介護という深い現実を経験した者にしか分からない気持ちがあります。
それは決して特別なことではなく、誰かと“にぎやかに盛り上がる”必要もない。ただ、同じような日々を生きる人と静かにつながるだけで、自分の中に小さな変化が生まれていく。
SNSは、そんな“共通の経験”を持つ人と、ちょうどいい距離で出会い直すことができる場所になっています。
身近な人には言えないことも話せる
家族や古くからの知人ほど、気を遣ってしまって本音が言えないことがあります。
「心配をかけたくない」「わかってもらえないだろう」──そう思うと、どうしても一人で抱え込みがちになります。
しかしSNS上では、同じような介護生活を送る人たちが、自分の感情を率直に表現していたりします。それを見て、「あ、自分だけじゃなかった」と思えることが、どれほど救いになるか。
気づけば、自分も少しずつ本音を打ち明けられるようになっていくのです。
「会わなくても伝わる」関係がある
人と会わずに気持ちが伝わるなんて──昔はそう思っていたかもしれません。
けれど、実際に言葉を交わしてみると、「あ、この人はわかってくれている」と感じる瞬間がある。
顔も本名も知らない相手なのに、なぜか安心できる。
それは、“同じ経験をしてきた”という共有感があるからです。
たとえば「今日は大変だった」と短くつぶやいたとき、それに「うんうん」と共感してくれる人がいる。たったそれだけでも、「会わなくても伝わる関係」は確かに存在するのです。
孤独を埋めるより、“支え合う”気持ちを持てた
孤独をどうにかしたい──そう思ってSNSに踏み出す人も多いでしょう。
けれど、続けていくうちに「誰かと支え合う」気持ちが生まれてくることがあります。
自分がコメントに励まされたように、今度は誰かの投稿に「大丈夫ですよ」と声をかけてみたくなる。
そのやり取りは、単なる寂しさの埋め合わせではなく、相手を思いやる“つながり”へと変わっていくのです。
こうしたやさしい循環が、介護生活という閉じた時間の中に、少しずつ光をもたらしてくれます。
まとめ|介護と向き合う人にこそ届けたい「話せる場」
介護を担う日々の中で、「自分のことは後回し」「誰かに頼るより耐えることが当たり前」になっていませんか?
そんな毎日の中でこそ、本当は「安心して話せる場所」が必要です。
にぎやかな交流や深い関係ではなくても、言葉を交わせるだけで救われる場。
SNSという選択肢が、あなたの生活の中にそっと寄り添ってくれるかもしれません。
つながりは“深さ”より“安心感”で選んでいい
「どうせつながるなら仲良くならなきゃ」「話が続かないと意味がない」──
そんなふうに思ってしまう方もいるかもしれませんが、介護をしている今だからこそ、無理のない“ゆるいつながり”が心地よいのです。
ただ気持ちを吐き出せるだけでいい。誰かの言葉にそっとうなずけるだけでもいい。
大切なのは「安心できるかどうか」。深い関係ではなくても、温かなつながりはきっと見つかります。
自分の気持ちに目を向ける時間が必要
介護に追われていると、自分の気持ちを振り返る時間さえなくなっていきます。
「疲れてるな」「誰かに聞いてほしいな」と感じても、それを言葉にする機会がないまま、積もっていくストレス──。
SNSで少しだけ自分の気持ちを書いてみることで、はじめて自分の感情に気づくこともあります。
心を整理するためにも、まずは“言葉にしてみる”ことが、立ち止まって深呼吸する時間になるのです。
あなたにも、やさしく話せる場所がきっとある
「自分にそんな場所なんてあるのかな」と思うかもしれません。
でも、実際には多くの人が「見るだけ」から始めて、「話すだけでもいい」と思えるつながりを少しずつ育てています。
あなたの言葉を、誰かが受け取ってくれる。あなたも、誰かの言葉に救われる──。
そんな“話せる場所”は、探さなくても、気づけばそっと隣にあったりします。
まずは、あなたのタイミングで、あなたのペースで。“つながり”のドアをノックしてみてください。