夫婦で会話が減った日々に|マッチングアプリではなくSNSが向いていた理由
「会話のない夕食」が日常になっていた
──今回は、結婚歴38年、現在60代の佐々木和子さん(仮名)に、夫婦の会話が減った日々と、その心の変化についてお話を伺いました。
話そうとしても「会話が続かない」夫婦関係
「おかえりなさいって言っても、返事が曖昧なんですよね。『疲れてるのかな』って思って話題を振っても、『ああ』とか『別に』で終わってしまって…。
こっちもだんだん話すのが怖くなる。無理して話しかけても空気が重くなるだけで」
佐々木さんのご主人は、数年前に定年退職。家にいる時間が増えたことで、以前よりも“夫婦の時間”は長くなったはずでした。しかし、会話はむしろ減っていったといいます。
「昔は子どものこととか仕事の話とか、自然と会話があったんです。
でも今は話すことがない。共通の話題もない。何を言っても興味を示してくれない感じがして…。
“話しても意味がない”って気持ちになってしまって、私の方もだんだん口を閉ざしてしまいました」
一緒にいても“ひとり”のような感覚
「テレビの音だけが響いてる食卓って、あんなに寂しいんだなって思いました。
一緒にごはんは食べてるのに、まったく会話がないんです。
声を出すのが自分だけだと、だんだん『あれ、私ひとりでしゃべってる?』って虚しくなってきて…」
佐々木さんは、「ひとり暮らしならまだしも、家に誰かがいるのに“ひとり感”が強くなるのは、本当にしんどい」と話します。
夫婦でいるのに孤独——そんな感覚を誰にも言えずに抱えている人は、想像以上に多いのではないでしょうか。
誰かに話したい。でも、誰にも言えなかった
「もちろん、友達に話そうと思ったこともありましたよ。でも『仲が悪いの?』って思われたらいやで…。
それに“夫婦のことは外に出すべきじゃない”って、自分でブレーキをかけちゃってたんです」
「本当は、誰でもいいから話したかった。
でも、話せる場所がなかった。聞いてくれる相手がいなかった。
だから毎日が、言葉のないまま終わっていくんです」
佐々木さんのように、身近な人にも言えず、自分の気持ちをしまい込んでしまう中高年は少なくありません。
「会話がない」ことは、そのまま「自分の存在が見えなくなる」ような感覚につながってしまうのです。
ネットの“話せる場所”が気になり始めた理由
──「誰かに話したい。でも、誰にも言えない」。そんな日々を過ごしていた佐々木和子さん(仮名・60代)が、思いがけず見つけたのは“ネットの中にある話せる場所”でした。
会わなくても、顔を見なくても、ただ言葉を交わせる誰かがいる──その存在が、日々の孤独を少しずつほぐしてくれたといいます。
会うよりも「話したい」だけの気持ちに気づいた
「今さら友達をつくろうとか、会ってお茶するとか、そういう元気は正直なかったんです。
でも、“ただ話したい”っていう気持ちはずっとありました。
顔も知らない人でいい。ただ“声を聞いてほしい”だけだったんです」
佐々木さんが意識し始めたのは、“深い関係”を求めるよりも、まずは“話すだけでいい”という自分の本音でした。
それは、無理に親しくなることを前提にせず、ただ一言でも言葉を交わせるだけの「気軽さ」に救われたいという感覚。
「夫と暮らしていて、“無言の重さ”に慣れてしまってたんだと思います。
だから、“ちょっとした会話”だけでもあれば、毎日がもっと軽くなるんじゃないかって。
それに気づいたら、会う・会わないはどうでもよくなっていました」
マッチングアプリは「恋愛前提」で気が引けた
「最初に思い浮かんだのは“マッチングアプリ”だったんです。
でも“恋愛が前提”みたいな雰囲気があって、なんか場違いな気がして…」
ネットで「誰かと話す方法」を調べていた佐々木さんは、真っ先に出てきたマッチングアプリに違和感を覚えたといいます。
「恋愛とか出会いとか、そういう気持ちはもう正直ないし…
ただ“気軽にしゃべれる人がいたら”って思っていただけなのに、
“相手を探す”みたいな流れになっていくのがしんどくて」
また、プロフィールを細かく書いたり、写真を載せることにも抵抗があり、「これは自分に合わないな」と感じたそうです。
「恋愛抜きで話せるSNS」があると知って安心した
「そんなとき、“恋愛じゃなくても使えるSNSがある”って知ったんです。
しかも、同年代の人が多くて、“日記みたいに言葉をつづれる場所”があるって」
そのSNSは、恋愛を前提としない交流がメイン。趣味や日常の出来事を気軽に書き込み、同じような年代の人と会話ができる仕組みでした。
「最初は半信半疑でしたけど、“会わなくていい”“話すだけでいい”っていうのが本当に気楽で。
“人と関わるのが怖い”って思ってた自分にとって、すごくやさしい場所でした」
SNSの中で少しずつ他人と関わるうちに、「話しかけてくれる人がいる」「誰かが返事をくれる」――そんな当たり前のやり取りが、思いのほか心の支えになっていったといいます。
「わかるよ」と言われただけで救われた夜
──「このまま誰とも話さずに一日が終わるのかな」。そんな思いが何度も心をよぎる日々。佐々木和子さん(仮名・60代)は、ある夜、はじめてSNSに投稿をしました。それは、たった一行の“誰かへのつぶやき”でしたが、そこで返ってきたのは想像もしなかった優しいひと言でした。
最初の投稿は「今日は誰とも話していません」
「その日も、朝から夜まで誰とも口をきいていなかったんです。
声を出す機会すらなくて。自分でも“何かまずいな”って感じて…」
眠る前、スマホを見つめながら佐々木さんはSNSに登録したばかりの画面を開きました。タイムラインには見知らぬ人たちのつぶやきが並んでいて、どこか静かで温かい空気が流れていました。
「試しに、ほんの一行だけ書いたんです。『今日は誰とも話していません』って。
誰かに読まれるとも思ってなかったし、正直、誰かとつながりたいっていう気持ちもそのときは弱かった」
けれど、思いを吐き出したその投稿に、数時間後──見知らぬ誰かから返信が届いていました。
見知らぬ誰かのひと言が、心にしみた
「“わかりますよ。私もそんな日がよくあります”って。たったそれだけのひと言でしたけど、
もう、本当に泣きそうになってしまって…」
佐々木さんにとって、それは“気持ちを否定せず、受け止めてくれる人”がどこかにいると知った瞬間でした。
顔も知らない、声も聞いたことのない誰かが、たった一言で心の奥に届いてきたのです。
「その人のプロフィールも知らないし、名前もよく見てなかったけど、
“あなたはひとりじゃない”って、言われたような気がしました。
何も変わってないのに、すごく救われたんです」
SNSの特徴でもある“匿名でのやりとり”だからこそ、余計な気遣いもなく、素直な自分を出せたのだと佐々木さんはいいます。
会話を交わすことで“自分を取り戻す”感覚が戻った
「その後も何度か、日記のように投稿していたら、いろんな人が“分かるよ”“私もそう”って言ってくれるようになって。
だんだん、自分の中に“話してもいいんだ”って気持ちが戻ってきました」
佐々木さんは、日々の小さな出来事を投稿するようになり、時折交わされる短いコメントが“心の会話”になっていきました。
「長く話さなくていいし、何を言っても否定されない。
そんなやりとりがあるだけで、“私はここにいていい”って思えるようになったんです。
会話って、“自分を取り戻す時間”なんですね。忘れていました」
離婚後にSNSを使った人の声(アンケートより)
実際に「離婚を経験した50代・60代の男女」を対象に行ったアンケートでは、SNSを使い始めたきっかけや、利用後の心境の変化について、さまざまな声が集まりました。
その中から特に印象的だった意見を紹介しながら、リアルな実感に触れてみたいと思います。
「ひとりごとのように投稿していたら、反応が返ってきた」
「最初は誰かと会話したいというより、自分の中の気持ちを“外に出したい”だけだったんです。
誰も見ていないと思ってたけど、ある日、ポンと『私もそう思います』って返信が来て…
ああ、誰かがちゃんと見ててくれたんだ、って思えた瞬間でした」
──(60代男性・Yさん)
「話す相手を探す」のではなく、まずは自分の声を発する場所としてSNSを活用したというYさんの声は、同じように「何かを抱えている」多くの人にとっての第一歩を象徴していました。
「いい人ぶらずに、本音で話せる場所があることに驚いた」
「リアルだと“ちゃんとした自分”を見せなきゃと思ってしまって、
なかなか弱音を吐けない。でも、SNSだと逆に“弱いところ”がスタートになるような気がして。
本音を出しても、ちゃんと返してくれる人がいるんですね」
──(50代女性・Aさん)
「匿名であること」が壁ではなく“安心感”になっていたという声も多く寄せられました。
Aさんのように「誰にも見せてこなかった気持ち」を安心して書き込めたことで、はじめて人とのつながりに対して前向きになれたという人は少なくありません。
「“既婚かどうか”を気にしなくていいのがありがたい」
「マッチングアプリだと、どうしても『恋愛目的?』みたいな空気があって、
離婚後はちょっと距離を感じていました。でも、SNSは“ただ話したいだけ”の人がいて、
『別に恋愛じゃなくていい』っていう気楽さがすごく合っていたんです」
──(60代女性・Kさん)
この声は、特に50代以降の方にとって「マッチングアプリではなくSNSがしっくりきた」理由として多く挙げられたポイントのひとつです。
“恋愛前提ではないつながり”が、逆に今の自分に必要だった──そんな気づきが、SNSで生まれていました。
「朝の“おはよう”で、1日の調子が変わった」
「離婚してから朝が特にしんどくて。誰とも話さないまま1日が始まると、
心がずっと“閉じたまま”みたいな感じだったんです。
でもSNSで『おはよう』って挨拶する習慣ができてから、不思議と少しだけ前向きになれました」
──(50代男性・Tさん)
日々の投稿ややりとりが“リズム”をつくり、生活に少しずつハリが出てきたという声も多く見られました。
誰かとリアルに会わなくても、「一言だけでも交わせる関係」が、心に与える効果は決して小さくないようです。
「誰かと“つながってる感覚”があれば、人は前を向ける」
このアンケートを通じて改めて感じたのは、
「話す」ことそのものよりも、“つながりの感覚”があるかどうかが、気持ちを支えるうえで大きな役割を果たしているという点でした。
ひとりで過ごす時間が長くなりがちな離婚後の生活に、
“誰かがそばにいるかもしれない”という実感が、心の重さを軽くしてくれている──
そんな手応えが、SNSという空間には確かに存在していました。
話す相手がいない不安に「会わない関係」がちょうどよかった
人とつながることに「疲れてしまった」経験がある人ほど、
SNSの“会わなくてもいい関係”に、ほっとしたという声が多く寄せられています。
深く関わりすぎることもなく、気を遣いすぎることもない。
だけど、ふとした瞬間に誰かが言葉を返してくれる──
そんな「ちょうどいい距離感」が、心の安心につながっていたようです。
距離があるからこそ言いやすいこともある
リアルな人間関係では、「言いにくいこと」がどうしてもあります。
相手の反応を気にして言葉を選んだり、自分の弱さを隠してしまったり。
一方、SNSでは“顔が見えないからこそ言えること”があるという声が多く聞かれました。
「こんなことで悩んでるなんて、リアルでは絶対言えない。でもSNSなら書けるんです」
「見た目も、立場も関係なく“心の声”を出せるって、こんなにラクなんだと気づきました」
「物理的な距離」があることで、「心理的な距離感」も自然と保たれる。
だからこそ、無理をせずに素直になれる瞬間が生まれたのです。
共感よりも“話していい空気”が大切だった
「共感」されたいわけじゃない。
でも、黙っていても誰かが「ここにいていいよ」と感じさせてくれる。
SNSを使う中で多かったのは、「話しても大丈夫」という空気に救われたという声でした。
「正直、誰かに“わかるよ”って言ってほしかったわけじゃないんです。
ただ、“話していい場所”があるって思えるだけで、少し落ち着けました」
──(50代・女性)
共感や助言よりも、自分の声を受け止めてくれる空間があることのほうが大きかった──
これは、リアルな対人関係ではなかなか得られない「安心感」だったと言えるでしょう。
気を張らない会話が、少しずつ気持ちを前向きにしてくれた
SNSでの会話は、日常の何気ないやりとりが中心です。
「今日は雨ですね」「朝から散歩に行きました」「コーヒー飲んでホッとしてます」
そんな短いやりとりの中に、「自分も誰かの日常に存在している」感覚が含まれています。
「気軽なあいさつや返信でも、“ちゃんと人と話してる”って感じられるんですよね。
毎日、少しずつ気持ちが戻ってきた気がしました」
──(60代・男性)
深い話をしなくてもいい。無理して明るく振る舞う必要もない。
そんな“気を張らない関係性”が、気持ちを少しずつほぐしてくれたという実感が、数多く寄せられました。
「恋愛」よりも「対話」を求めていたと気づけた
孤独を感じたとき、「誰かと話したい」と思うのは自然なことです。
ですがその気持ちが「恋愛をしたい」からではない──ということに、あとから気づく人も少なくありません。
とくに熟年世代の場合、「恋愛のような重さや駆け引き」よりも、
もっとシンプルに「話すことができる相手」を必要としているケースが多く見られました。
マッチングアプリにはない“安心感”
実際に、いくつかのマッチングアプリを試してみたという声もありました。
ですが多くの人が共通して感じたのは、「前提として恋愛があることへの違和感」でした。
「プロフィールを見ても“恋愛対象になるかどうか”ばかりを気にしてしまうんです。
でも、私はそんなことより、“ただ話せる人”がほしかった」
──(60代・女性)
マッチングアプリは、恋愛・再婚といった目的には向いているかもしれません。
しかし、「日常の中で、自然に誰かと話したい」「関係性に重さがほしくない」
という方にとっては、逆にハードルの高い場所にもなりえます。
その点、SNSには“目的を決めなくていい”という安心感があります。
SNSは“話すだけで満たされる”場所
SNS上では、相手に求めるものがとてもシンプルです。
「恋人になってくれそうか」ではなく、「返事をくれたらうれしいな」というレベル。
「ただ“おはようございます”って言い合えるだけで、
こんなに心が落ち着くなんて思っていませんでした」
──(50代・男性)
人と話すこと。それだけで気持ちが少し和らぎ、
自分という存在が「誰かの目にちゃんと映っている」と実感できる。
SNSはそんな、“言葉を交わすこと自体が目的になる”空間。
「恋愛じゃない関係」に飢えていた心に、穏やかに沁み込んでくる場所なのです。
「恋愛じゃないつながり」を望む人が他にもいた
そして何より、多くの人が驚くのは──
**「自分と同じように、恋愛じゃないつながりを求めている人が想像以上に多かった」**という事実です。
「投稿を見ていると、“誰かとちょっとだけ話したい”という人がこんなにいるんだって気づきます。
一人じゃなかったんだと思えました」
──(60代・女性)
誰かと深く関わることが目的ではなく、
ちょっとした“対話”を通じて、自分の輪郭を保つ。
それが今、熟年世代にとっての「つながり」の新しいカタチなのかもしれません。
まとめ|夫婦で会話が減った今、“自分の言葉”を出せる場所を
夫婦で一緒にいるのに、会話がなくなる。
沈黙が日常になっていく──そんな現実に、ふと寂しさを感じる瞬間があります。
でもその寂しさは、「誰かと話したい」という気持ちの裏返し。
そしてその気持ちこそが、**“自分らしさを取り戻すきっかけ”**になることもあります。
話せる場があれば、人は変わり始める
「誰かに話す」ことで、気持ちが整理されることがあります。
「言葉にする」ことで、もやもやした感情に輪郭が与えられることもあります。
SNSという場所は、その第一歩を支えてくれる存在になり得ます。
「はじめは抵抗がありました。でも、実際に話してみると、
こんなにも心が軽くなるんだと気づきました」
──(60代・女性)
相手の顔が見えないからこそ、言えることがあります。
家族や友人には言えなかった気持ちも、
“聞いてくれる誰か”がいることで、自然に口をついて出てくることがあるのです。
会話のキャッチボールは、SNSでもできる
「会話」と聞くと、リアルに顔を合わせた対面でのやりとりを想像しがちです。
けれども、SNSでもちゃんと“言葉のキャッチボール”は成立します。
テキストでのやり取りは、一見すると淡白に見えるかもしれません。
しかしそれは、自分の気持ちと向き合い、相手の言葉を受け取るという
丁寧な時間を持てる手段でもあります。
「『今日、こんなことがあって』と書くだけで、
誰かが見ていてくれる安心感があるんです」
会話の目的は、正解を出すことではなく、
「話せてよかった」「聞いてもらえた」という実感を得ること。
SNSは、そうした感覚を気負わず得られる“心のゆとり空間”とも言えるでしょう。
同じ悩みを抱える誰かとつながる一歩を
夫婦の会話が減ったことを「仕方ない」と流してしまうのではなく、
「なぜ寂しいと感じるのか」「何を本当は求めているのか」を、
自分の中で見つめ直してみることが、次の一歩につながります。
その一歩は、大きな決断ではなくてもいいのです。
誰かの投稿を読むだけでもいいし、「こんばんは」と挨拶するだけでもいい。
「自分の言葉を、誰かが受け止めてくれる場所がある」
そんな実感があるだけで、人はほんの少し前を向ける。
SNSには、その“静かな変化”を支える力があります。