熟年離婚を経験した60代女性が語る“新しいつながり”との出会い方
離婚後の生活は、想像以上に静かだった
──60代女性・杉本佳代さん(仮名)に聞く、離婚後の暮らしと“つながり”への想い
「自分で決めたことなんです。後悔はしていません」
そう語るのは、都内在住の杉本佳代さん(仮名・64歳)。
30年以上連れ添った夫と“おだやかな離婚”を選び、定年退職をきっかけに一人暮らしを始めました。
「自由な時間を取り戻せる」と思っていたはずの毎日は、想像以上に“静かすぎる”ものだったといいます。
「やっと自由になれたはずなのに…」と感じた日々
──離婚を選ばれた当時は、どんなお気持ちだったのでしょう?
杉本さん「そうですね、“やっと自分の時間が持てる”って思ってました。子育て、仕事、家事…ずっと誰かのために動いてきて、やっと肩の荷が下りたというか。
50代のころは『老後は1人でのんびり生きよう』なんて口にしていたくらいですから(笑)」
──その“自由”を実際に手にしてみて、いかがでしたか?
杉本さん「思っていたより、ずっと“音がない”毎日でしたね。
朝起きても、何も言葉を交わさない。夜になっても、テレビ以外の音がない。
最初は“静かで快適”って思ったんです。でもだんだん…それが“寂しい”に変わっていって」
会話のない部屋が思った以上に堪えた
──特にどんな瞬間に“堪えるな”と感じましたか?
杉本さん「夕食の時間ですかね。
『いただきます』も言わず、『ごちそうさま』も言わず、ただ食べて片づけるだけ。
それまで夫とはあまり会話がなかったとはいえ、何かしら“音”はあったんです。
でも、完全にひとりになると、その“音のない時間”が心に響いてきて…」
──“自由”の裏にあった“孤独”ですね。
杉本さん「はい。しかも、離婚を選んだのは私自身。
誰かに“寂しい”って言ったら、“自分で選んだ道でしょう?”って思われそうで。
だからこそ、気軽に話せる相手がいないのが、すごくきつかったです」
孤独と向き合った“長い夜”のこと
──夜は特に、気持ちが沈みやすい時間かもしれませんね。
杉本さん「そうですね。
夕方から夜にかけてが一番つらかったかもしれません。
あたたかい食事を作っても、それを“おいしい”と言ってくれる人がいない。
テレビの音だけが響いている中で、“今日は誰とも言葉を交わしてない”って気づくと、
ふと涙が出てしまったこともあります」
──そこから、気持ちを切り替えるきっかけは何だったのでしょう?
杉本さん「たまたまネットで“再婚”とか“熟年マッチング”を検索していたときに、“恋愛じゃなくても、話せるSNSがある”っていう言葉を見つけたんです。
それが、私の中で最初の『誰かとまた話してもいいかもしれない』って思えた瞬間でした」
「人と話したい」気持ちがよみがえったきっかけ
──“誰かと話したい”という気持ちは、どうやって戻ってきたのか。杉本さんに、その再出発のきっかけを聞きました。
久しぶりの「誰かとの会話」が心に響いた
──“孤独な夜”が続いていたとのことでしたが、そこからどう変化されたのですか?
杉本さん「あるとき、地域のボランティア講座に申し込んでみたんです。
“何かしてみよう”っていうより、“誰かと喋れるかもしれない”って期待が大きくて。
その場で、同年代の女性とちょっとした会話ができて…。ほんの5分くらいだったんですけど、
『あ、こんなにうれしいんだ』って、体がふわっと軽くなったのを覚えています」
──その会話が、大きな一歩だったんですね。
杉本さん「はい。何でもない天気の話とか、お弁当の話とかなんですけど、“私もそう思います”って笑い合えたことが、すごく救いでした。
『誰かと話したい』って、やっぱり本音だったんだって。ずっと抑えていたんですね、気づかないふりして」
再婚でも恋愛でもない“つながり”を探して
──それから、どのように“つながり”を探し始めたのでしょう?
杉本さん「最初は“再婚”って言葉もよぎりました。でも、正直そこまでのエネルギーはなくて。
もう恋愛をしたいっていう感じではなかったんです。
ただ、『何気ない話ができる相手がほしい』っていう想いが強くなって…。
ネットで“中高年 話せる相手”とか、“一人暮らし 会話”みたいに検索して、いろんな記事を読みました」
──“つながり=恋愛”ではない、新しい形ですね。
杉本さん「ええ。“誰かとつながりたい”っていう気持ちを、もっと柔らかく受け止めてくれる場所があるかもしれない。そう思い始めてから、視野が広がっていきました。
“いいね”をもらうとか、コメントをもらうとか、そういうのじゃなくて、“話ができる”ってだけで十分なんですよね」
ネット=怖いではなく「安心して話せる場」もあると知った
──インターネットに対する不安はありませんでしたか?
杉本さん「正直、最初は“怖い”って思ってました。知らない人と話すなんて、何かトラブルに巻き込まれるんじゃないかって…。
でも、中高年向けのSNSを紹介している記事をいくつか読んで、『顔を出さなくても、実名じゃなくても大丈夫』とか、『恋愛目的じゃない安心な場所がある』って知って、少し安心しました」
──実際に使ってみて、どうでしたか?
杉本さん「はじめは“見るだけ”でしたけど、似たような境遇の人たちが“今日はちょっと疲れた”とか、“話せる場所があってよかった”って書いてるのを見て…。
『私も書いてみようかな』って思えたんです。
一歩目を踏み出すまでは怖かったけど、“ああ、ここなら無理をしなくてもいいんだな”って感じられました」
少しずつ始まった“画面越しの会話”が変えてくれた
──「見るだけ」だったSNSから、実際に言葉を発信し始めた杉本さん。
その一歩が、思わぬ心の変化につながっていきました。
はじめてSNSに投稿した日のこと
──はじめて投稿をされたとき、どんな気持ちでしたか?
杉本さん「緊張しましたよ(笑)。“誰も見てなかったらどうしよう”“変に思われたら嫌だな”って不安もありました。
でも、その日は何となく気持ちが揺れていて…。
夜の画面を見ながら、『今日は、なんとなくさみしい一日でした』って、一言だけ投稿したんです」
──その投稿に、何か反応はありましたか?
杉本さん「数分後に、“わかります”って返信が来ていて…。驚きました。
それだけなのに、すごくホッとしたんです。“私だけじゃないんだ”って思えたことが、すごく大きくて。
涙が出そうになりました」
「おはよう」「わかります」だけで救われた
──それから、徐々に交流が始まっていったんですね。
杉本さん「はい。毎朝“おはようございます”って一言だけ書いたり、他の人の投稿に“それ分かります”って返したり。
それだけで“誰かと会話してる”って感覚が生まれるんです。
顔も知らない、会ったこともない相手だけど、つながってる安心感があって」
──言葉って、本当に不思議ですね。
杉本さん「ええ。“深い話”じゃなくていいんですよ。
短い言葉のやりとりで、“私はここにいていい”って気持ちが生まれていく。
画面越しだけど、誰かに声をかける・かけてもらうって、こんなにあたたかいんだなって思いました」
会わなくても、心が近づく関係は築ける
──SNSでの交流に、どんな変化がありましたか?
杉本さん「最初は“ひとりごと”みたいに投稿していたんですけど、
やり取りが少しずつ増えて、“毎日朝に挨拶し合う人”ができてきて。
顔も知らないのに、“この人、今日はまだ来てないな”って心配になるくらい、距離が縮まっていきました」
──それは、まさに“画面越しの友だち”ですね。
杉本さん「そうですね。会ったことはなくても、“気持ちを受け止めてくれる相手”って、距離に関係ないんだなって思いました。
SNSってもっと軽いものだと思ってたけど、
“話せる場所”として、自分を支えてくれる存在になりました」
【図解】熟年離婚後の孤独と“再び人とつながれた理由”
熟年離婚を経験した60代の女性たちにお話を伺うなかで、もっとも共通していたのが「予想以上に深い孤独感」でした。配偶者と離れて自由になったはずの生活が、想像以上に静かで、自分でも気づかないうちに心が冷えていくような感覚。こうした声は決して一部ではなく、多くの人に共通する実感でした。
ここでは、熟年離婚後に感じた孤独やその乗り越え方を、アンケートデータをもとに可視化しました。SNSを通じた“新しいつながり”がどのように心を支えていったのかを、3つの図でご紹介します。
図1|熟年離婚後に感じた孤独TOP5

最初に紹介するのは、離婚後の生活で「もっとも孤独を感じた瞬間は?」という問いに対する回答です。以下は、その中でも多く挙げられた上位5つの声です。
1位は「誰とも会話しない日が続いたとき」。思わず口に出して話しかけたくなる瞬間があっても、返してくれる人がいない。その“静寂の重さ”が心に堪えるという意見が非常に多く見られました。
ほかにも、「休日の食事」「テレビを観ていて笑いを共有できない」「寝る前の時間」など、ふとした日常のなかで感じる“空白”が、多くの人にとって孤独の引き金になっていたようです。
図2|SNSを始めたことで変化した気持ち

続いては、SNSを利用し始めたことで「どんな気持ちの変化があったか」です。
「話せる人ができた」「誰かに聞いてもらえる場所があると感じた」「少し安心できるようになった」などの変化は、決して派手な出来事ではありません。しかし、日々の中で静かに心を支えるような、小さな“あたたかさの積み重ね”が、大きな意味を持っていたことが読み取れます。
アンケートでは、SNS上のやりとりが「癒しになった」「生活のリズムが整った」と語る声もあり、孤独を埋める手段としてのSNSの役割が再評価されてきているのが分かります。
図3|リアルとSNSの“つながりの違い”
最後に、リアルな人間関係とSNS上でのつながりについて、その特徴を比較した表です。
比較項目 | リアルな人間関係 | SNS上のつながり |
---|
会話の頻度 | 定期的に会う必要があることが多い | 自分のタイミングで関われる |
気遣いの必要性 | 相手の状況や感情に配慮し続ける必要がある | 無理せず気軽に接することができる |
関係性のプレッシャー | 継続的な交流や役割意識による負担を感じやすい | 関係の深さを自分で調整できる |
共通点の見つけやすさ | 地域・職場など偶然の共通項から始まることが多い | 興味や悩みなどテーマで自然につながりやすい |
距離感 | 物理的・精神的に近すぎて気疲れすることもある | 画面越しだからこその“ちょうどいい距離感”が保てる |
心の支えとしての役割 | 長い関係性が深い信頼や支えになることがある | 小さなやり取りでも「寄り添われている」と感じやすい |
リアルな関係は、もちろん深さや信頼性の点で価値がありますが、同時に「気を遣う」「関係を維持し続けるプレッシャーがある」という側面も避けられません。
一方で、SNSのつながりは“必要なときだけ会話できる”“無理なく自分のペースで関われる”という「軽やかさ」があります。この「適度な距離感」が、熟年離婚後の方々にとってはむしろ安心感につながるという結果が見えてきました。
小さな“安心感”が、次の一歩を支える
熟年離婚は、心にも生活にも大きな転機をもたらします。そんなとき、誰かと話せる場所があるかどうかで、その後の毎日が大きく変わっていく――。アンケートや体験談からは、そんな切実な現実が浮かび上がってきました。
「誰かと会わなくても、話せる」「無理しなくていい関係がある」。そんな新しい形のつながりが、これからの人生を支える一助になるかもしれません。
会わないからこそ、気持ちが伝わる安心な関係もある
熟年離婚を経験した方が、再び誰かとつながろうと思ったとき、「リアルな関係でなくては」と思いがちです。しかし実際には、“会わない関係”だからこそ築ける安心感もあります。
画面越しに交わされるたった一言、時間を置いた返信、何気ない投稿への反応——それらが重なることで、見えないけれど温かい「気配」が生まれていきます。
「リアルな関係じゃなくても、十分に心が通う」ことを実感した人たちの声や、その理由を見ていきましょう。
自分のタイミングで関われる“ゆるやかさ”
対面での会話には、時間や場所、さらには気分まで合わせる必要があります。とくに熟年世代になると、体力的・精神的に「人に会うことが負担」と感じる場面も少なくありません。
一方、SNSやチャットのやりとりには「そのときに返信しなくてもいい」「言葉を選んでから伝えられる」といった自由があります。これは、自分のペースを崩さずに人とつながれる、いわば“ゆるやかさ”のある関係です。
ときには日をまたいでのやりとりでも、気まずくない。それが、プレッシャーにならずに心地よく続いていく理由のひとつと言えるでしょう。
話題がなくても、そばに誰かがいる感覚
「今日は特に何もないけど、誰かとつながっていたい」——そんな気持ちに応えてくれるのも、SNSの良さです。
実際、投稿に「おはよう」と一言だけ書き込むだけで誰かが「おはようございます」と返してくれる。その何気ないやりとりが、部屋の静けさをやわらげてくれます。
無理に面白い話をしようとしなくてもいい、話題がなくても気まずくならない。そんな空間にいられることで、「ひとりじゃない」と感じられるのです。
「会話だけのつながり」が与えてくれる心の余白
リアルな人間関係では、「会って何かしなければならない」「相手を気遣わなければ」という感覚が常につきまといます。それがときに、心の疲れにつながることも。
その点、“会話だけ”の関係は、適度な距離感が保たれるからこそ、心に余白が生まれます。
誰かと深くなりすぎず、かといって孤立もせず。必要なときだけポツリと話せる関係は、「支えられている」と同時に「自立している」とも感じさせてくれます。
これこそが、熟年世代にとっての“ちょうどいいつながり”なのかもしれません。
離婚後の“再スタート”は、関係のつくり直しから
離婚を経て一人になったとき、真っ先にぶつかるのは「これから、どう生きていこう」という不安です。とくに長年連れ添ったパートナーと離れた後は、日常のなかにぽっかりと空白が生まれます。
でも、再スタートに必要なのは、新しい趣味や大きな変化ではなく、「人との関係を一からつくり直していくこと」なのかもしれません。
それは必ずしも“深い関係”を築くことではなく、「少しだけ話せる」「軽く挨拶を交わせる」くらいのゆるやかな関係から始まっていくのです。
無理に誰かと深く関わらなくてもいい
再スタートと言われると、「何か新しい人間関係を築かなければ」「孤独を埋める何かを探さなければ」と焦る気持ちになるかもしれません。
しかし実際に離婚を経験した人たちの多くは、「無理をしない関係」こそが心を救ってくれたと語ります。
たとえば、毎日SNSでやりとりするわけではないけれど、たまに投稿を見てくれる、ふとしたときに返信をくれる——そうした小さな関わりが「ちょうどいい」と感じられることもあるのです。
深く関わらなくてもいい。むしろ、その“浅さ”が今の自分にとっての「安心」なのだと気づくと、少し気が楽になります。
つながることで気づける「まだ大丈夫」の感覚
人と関わることを避けていた時間が長くなると、自分に自信を持つことが難しくなってきます。「誰にも必要とされていないのでは」と感じることもあるでしょう。
しかし、誰かが反応してくれる。誰かが聞いてくれる。そんな小さなリアクションがあるだけで、「ああ、自分はまだ大丈夫なんだ」と思える瞬間があります。
“つながる”という行動は、他人のためでなく、自分自身のため。自分の存在を肯定できる感覚を取り戻すきっかけになるのです。
過去ではなく“これから”を見つめられるようになった
離婚の理由や過去の出来事に引っ張られてしまうことは、誰にでもあります。どうしても「なぜこうなったのか」と考えてしまい、前に進むのが難しくなることもあるでしょう。
でも、ほんの少し誰かと会話をしたり、投稿を読んでもらったりするうちに、次第に視線が過去から未来へと向いていきます。
「これから、どんな人と出会えるだろう」「自分が安心して過ごせる場所はどこだろう」——そう思えるようになることが、離婚後の再スタートには何より大切なのかもしれません。
人とゆるやかにつながること。それが、過去を乗り越え、未来を見つめるための“第一歩”になるのです。
まとめ|「話す場所」があるだけで、人は変われる
離婚という人生の大きな転機のあと、多くの人が「孤独」と「静けさ」のなかで戸惑います。けれど、そんな中でも変化のきっかけになったのは、意外にも「たった一言の会話」だったという声が少なくありません。
“話せる場所”があるだけで、人の心は少しずつ前を向き始めます。リアルでもSNSでも、「ここなら話しても大丈夫」と感じられる場との出会いが、再スタートを後押ししてくれるのです。
誰かに気持ちを話せることが、自分を立て直す鍵になる
人は、自分の気持ちを誰にも話せない時間が長くなるほど、心の中で孤立を深めていきます。離婚後に感じる孤独の多くも、「話せる相手がいない」「話してもいいのか分からない」という不安から生まれるものです。
でも、ほんの少しだけでも「話せる場」があると、人は変わりはじめます。
たとえばSNSで「おはよう」と誰かに言うこと。何気ないつぶやきに「わかります」と返してもらえること。それらが積み重なることで、「私はここにいてもいい」と思えるようになるのです。
心を立て直す鍵は、決して大きな出来事ではなく、日常に紛れ込むような“会話”のなかにあります。
今すぐ始められる“やさしいつながり方”とは
多くの人が「人と関わるのはハードルが高い」と感じてしまうのは、深い関係や頻繁なやりとりを想像してしまうからかもしれません。
でも実際には、もっと“やさしいつながり方”もあります。
・自分のペースで投稿するだけ
・誰かの言葉に「いいね」を押すだけ
・特定の相手ではなく、匿名で気持ちをつぶやく
こうした一歩なら、今すぐにでも始めることができます。そして、その一歩が「つながるって、こんなに自然でいいんだ」と気づかせてくれるのです。
気を張らずに関われるつながりは、自分を守りながらも、前に進む力をそっと与えてくれる存在です。
これから離婚や孤独を経験する人へ届けたい言葉
離婚は人生の終わりではなく、“一つの区切り”にすぎません。そこから先、どんなふうに人と関わり、自分らしく過ごしていくかは、すべて自分で選ぶことができます。
そしてその選択肢のなかに、「人と話せる場所」があるかどうかは、思っている以上に大きな意味を持ちます。
「誰かと話したい」と思ったとき、声をかけられる場所がある。見守ってくれる誰かがいる。そんな環境があれば、孤独も、再出発の不安も、少しずつほぐれていきます。
これから同じような経験をする誰かに伝えたいのは、「あなたの気持ちを聞いてくれる人は、きっとどこかにいる」ということ。そして、つながりを探すことは、決して恥ずかしいことではなく、前を向くための“優しい選択”なのだということです。