60代男性の葛藤「マッチングアプリを始める前にSNSで試したかった
「寂しさ」をどう言葉にしていいか分からなかった
今回お話を伺ったのは、東京都在住の60代男性・柴田さん(仮名)。数年前に妻を亡くし、一人暮らしとなってから初めて「人と話す機会の大切さ」に気づいたと語ります。もともと無口な性格で、SNSやマッチングアプリなどのオンラインサービスには距離を感じていたものの、心のどこかで“誰かとつながりたい”という思いを抱えていたそうです。
そんな柴田さんが、マッチングアプリを前に抱いた葛藤や、SNSへの憧れについてお話を聞きました。
妻と死別後、誰かと話したい気持ちが芽生えた
「妻が亡くなってから、静かな家にひとりでいると、誰かの声が聞きたくなるんです。でも、いざ誰かに電話をかけるほどの元気もなくて…。一日中、テレビだけが話し相手でした」
柴田さんは、日常の些細なことを共有できる相手がいないことに、静かに孤独を感じていたといいます。長年連れ添ったパートナーを失った喪失感は大きく、誰かと話したいと思っても、「迷惑になるかもしれない」と自ら気持ちにブレーキをかけてしまっていたそうです。
「いきなり恋愛」は気が引けて、動けなかった
「周囲では『マッチングアプリって便利らしいよ』って言う人もいました。でも、自分の年齢で恋愛目的のアプリに登録するって…なんだか、すごく場違いな感じがして」
柴田さんは、恋愛というよりも「日々の会話」や「誰かとのやりとり」が欲しかっただけだと振り返ります。それでも“マッチングアプリ=恋愛ありき”という印象が強く、「恋愛を前提にしなければいけない場所」に踏み込む勇気が持てなかったと言います。
誰にも言えない気持ちを、SNSで書く人たちが羨ましかった
「SNSで日々の気持ちを発信している人たちを見て、『こんなふうに自分を出せるのは、いいな』って思っていました。でも自分には無理だって、最初は思っていました」
柴田さんは、SNSの世界で日々の悩みや気づきを投稿する同世代の人々を見て、「こんな場所があるなら、最初からここにいればよかったのかもしれない」と感じていたそうです。
ただ、いきなり自分の気持ちをさらけ出す勇気が持てず、SNSのアカウントを作っても最初の投稿には長い時間がかかったと語ります。
勇気を出して始めたマッチングアプリで感じた壁
柴田さんがSNSという選択肢にたどり着くまでには、「マッチングアプリを使ってみたけれど、どうにも馴染めなかった」という経験がありました。寂しさを埋めるために行動を起こしてみたものの、その場には自分の求めていた“人との関わり方”とは違う空気が流れていたと言います。
プロフィールの時点で“選ばれる怖さ”があった
「プロフィールって、すごく難しいですね。正直に書けば“重たい”って思われそうだし、無理して明るく書くと“自分じゃない”感じがして。結局、何を書けばいいのか分からなくなってしまって」
柴田さんが最初につまずいたのは、「自己紹介」という壁でした。マッチングアプリでは、写真や年齢、趣味や性格などを入力して“自分を表現すること”が求められます。しかし、人生経験を重ねた今、「選ばれるための自分を演じる」ことに違和感を覚えたと言います。
「まるで就職活動のエントリーシートみたいでした。“良さそうな人”として見せなきゃいけない感覚が、苦しかったです」
メッセージが続かず「会話の目的」が分からなくなった
「やりとりを始めても、“会うこと”や“恋愛”が前提になっている感じがして…。軽い話をしても、すぐ『会いますか?』って展開になって、びっくりしました」
実際にマッチングが成立しても、会話のテンポや目的に戸惑いがあった柴田さん。自分は「誰かと話したいだけ」だったのに、相手からは「会う・付き合う・進展する」ことが当然のように期待される──そのズレが、だんだんとしんどくなっていったと語ります。
「別に恋愛を否定してるわけじゃないんです。でも“まだそこまで求めてない人”にとっては、ついていけない世界かもしれませんね」
「恋愛前提」の空気に、自分だけが場違いな気がした
「正直、『ここは自分が入る場所じゃなかったのかも』って思いました。周りはもっと前向きで、恋愛に積極的な人たちばかりで」
柴田さんが感じたのは、「恋愛を目的にした人たち」が前提となっている場所に、自分のような“つながりだけを求める人”が入る余地のなさでした。
やがて、アプリを開く回数は減り、気づけばそのまま退会していたそうです。
「『ちょっと話したいだけ』って気持ちを持ってる人にも、合う場所があると知っていたら、違ったかもしれません」
本当は、まず“雑談”がしたかった
柴田さんはマッチングアプリの経験を経て、改めて「自分が本当に欲しかったのは“つながり”よりもまず“ことばのやりとり”だった」と気づいたと話します。恋愛や出会いを前提としないSNSや掲示板の存在を知ったとき、もっと早くそこに目を向けていればよかったと振り返ります。
「何気ない会話」が自分にとっての出発点だった
「本当は、最初から“誰かとちょっとした雑談ができる場”を探していたんだと思います。誰かと話したいけど、いきなり『会おう』とか『付き合う前提』じゃなくて、まずは“ことばだけ”でつながりたかった」
柴田さんが一番求めていたのは、共感を探すことでも恋愛感情を育むことでもなく、ただ「日々の思いや小さな出来事を誰かと共有できる場」でした。
しかし当時、「話すだけの場」があることすら知らず、マッチングアプリを選んでしまったと言います。
「たとえば『今日は天気がよくて気持ちがいい』とか、そういう小さな会話でいいんです。相手が答えてくれたら、それだけで嬉しいんですよね」
同世代同士のSNSは、共通の話題が見つけやすい
「掲示板とかSNSって、自分と同じ世代の人が集まってることが多くて、話題が合うんですよ。“あ、これ分かる”って思えるだけで、ちょっと救われるんです」
柴田さんはその後、中高年向けのSNSやコミュニティ掲示板をのぞいてみたそうです。そこには同世代ならではの価値観や悩み、日常の話題が自然と飛び交っていて、恋愛に限らない「ゆるやかな会話」が広がっていたといいます。
「恋愛目的じゃないからこそ、“話したいだけ”の自分でも入っていきやすい。あれが自分に合った“スタート地点”だったんだと思います」
会うよりも、気持ちを知れる時間がほしかった
「たとえば、いきなり会いましょうじゃなくて、“この人はどんな考え方をするんだろう”って、ことばの積み重ねで分かってくる関係性っていいなって思うんです」
柴田さんにとっては、「誰かと直接会う」よりも、まず「文章を通して気持ちに触れる時間」の方が重要だったと言います。それは、「誰かと話すのが久しぶりだった自分」にとって、必要な“リハビリ”でもあったのかもしれません。
「今なら分かります。話せる場所が先にあって、そこから自然に関係が深まっていく方が、自分には合っていたんだと思います」
【図解】中高年男性がマッチングアプリで感じた不安と“本当の望み”とは?
図1:マッチングアプリに対する不安TOP5

中高年男性に対して「マッチングアプリを始める前に感じた不安」を尋ねたところ、最も多かったのは「恋愛が前提の雰囲気に戸惑う」という声でした。
多くの中高年男性にとって、恋愛を強く意識させる空気は「本音を話す場」というよりも「構えてしまう場」となってしまいがちです。
また、「プロフィールで判断されるのが怖い」「年齢で相手にされない気がする」といった、自分が受け入れられないことへの不安も上位にあがっています。
これは、“会話より見た目や条件で判断されるのでは”という、表に出にくい内心の抵抗感の表れです。
さらに「詐欺や業者がいそう」「使い方がわからない」といったセキュリティ面・操作面での心配も目立ちました。
SNSやチャットサービスに比べ、マッチングアプリには「恋愛目的で接触してくる人=警戒すべき存在」と感じさせる場面も少なくないのが現実です。
こうした不安が積み重なり、「本当は誰かと話したい」「話を聞いてもらいたい」という気持ちがあっても、一歩を踏み出せない中高年男性が多いのです。
図2:「SNSから始めればよかった」と感じた理由

「マッチングアプリを使ったあと、SNSから始めればよかったと感じた理由」を尋ねたところ、最も多かったのは「恋愛を意識せず話せるから」という回答でした。
マッチングアプリは本来、恋愛や再婚を目的とした場であることが多く、プロフィールや写真、条件でのマッチングが中心です。
それに対してSNSは「まずは会話から」「同じ趣味・悩みからゆるくつながる」ことができ、プレッシャーなく話せるという点が評価されています。
次に多かった理由は「相手の人柄が自然に見えるから」。SNSでは日々のつぶやきややり取りを通して、相手の考え方や価値観に触れやすく、警戒心も薄れやすくなります。
また、「失敗しても気まずくない」「年齢がハンデになりにくい」といった声もありました。
マッチングアプリでうまくいかなかった経験が、SNSのような“会話から始まる場”の安心感を際立たせているのです。
図3:マッチングアプリとSNSの違い
比較項目 | マッチングアプリ | SNS・チャット型サービス |
---|---|---|
主な目的 | 恋愛・再婚・パートナー探しが前提 | 会話・雑談・趣味など、日常的なつながり |
雰囲気 | 恋愛色が強く、やや構えた空気 | 気軽で自然体、プレッシャーが少ない |
始めやすさ | プロフィール・写真登録が必須 | 名前やプロフィールが簡素でも始められる |
会話の始まり方 | お互いに「いいね」や条件マッチ後にスタート | 掲示板・投稿・つぶやきなどから自然に始まる |
年齢の印象 | 若い人中心の印象があり、中高年は敬遠されやすい | 同年代が多いコミュニティも多く、安心しやすい |
写真・条件の重視 | 写真・条件で評価される傾向が強い | 投稿ややりとりで人柄が見えやすい |
トラブルの不安 | サクラや業者への不安が高い | 公開範囲の選択や匿名性があり比較的安心 |
継続のしやすさ | やり取りが恋愛前提なので続けるのが難しい場合も | 話題が自由なので継続しやすい |
マッチングアプリとSNSの違いを整理した表です。
両者は目的・雰囲気・始めやすさ・会話の流れなど、さまざまな面で異なっています。
例えば、マッチングアプリは「恋愛」や「パートナー探し」が明確な前提となっているため、会話のきっかけづくりや話題選びにも気を遣います。
それに対してSNSは「共通の話題でつながる」「何気ない日常を話す」ことが自然で、会話のプレッシャーが少なく、挨拶から雑談へと自然に関係が進みます。
また、プロフィールや写真の重要性、利用者層の印象、トラブルの起きやすさなどにも違いがあります。
特に中高年男性にとっては、「構えずに話せる場」であるSNSのほうが、自分のペースで無理なく関係を築けるという点で支持されやすい傾向が見られました。
会話から始まる“ゆるいつながり”が、安心につながる
恋愛目的にこだわらず「話すこと」に意味がある
マッチングアプリに対して「恋愛が前提で重たい」「期待に応えなきゃと緊張する」と感じてしまう人は少なくありません。
特に中高年になると、恋愛そのものより「誰かと話せる時間」や「日々の出来事を共有できること」に安心感を覚えるという声が多く見られます。
会話は、それ自体が目的になってもいいのです。
「今日あったことを誰かに話す」「誰かの話にうなずく」「ちょっとした感想を伝え合う」──
それだけで、気持ちが軽くなったり、自分の存在が受け入れられたように感じることがあります。
恋愛ではなく“ことば”を通じた交流。
その入り口があるからこそ、無理のないペースで人とつながることができ、結果的に深い関係が築かれることもあるのです。
SNSで出会った人との“ちょうどいい距離感”
SNSでの出会いは、いわば「ゆるやかな関係性」がベースです。
マッチングアプリのように目的が限定されていないため、「まずは何気ない一言から」「お互いの趣味にコメントし合う」といった、構えない接点が生まれやすくなります。
この“ちょうどいい距離感”こそが、中高年世代にとっての安心材料です。
たとえば、返信が遅くても気まずくない、何日か空いてもまた話せる、必要以上に干渉されない──そんな「余白」があるからこそ、続けやすいのです。
SNSでは、やり取りを重ねる中で自然に相手の価値観や人柄が伝わってきます。
無理に自分をアピールしなくても、「この人とは話しやすいな」「なんとなく合うな」と感じられる相手と出会える確率が高まるのも特徴です。
自分のタイミングで関係が深められる柔らかさ
中高年にとって「人間関係のペースを自分で決められること」は、とても大切な安心要素です。
仕事や介護、体調など生活リズムが変わりやすい年代だからこそ、毎日連絡を取り合うことを強制されると、逆に負担になってしまうこともあります。
SNSでのつながりは、そうした状況を前提にしてくれます。
一気に仲良くなる必要はなく、会話が続けばそのまま、少し間が空けばまた気が向いたときに──という“柔らかいつながり”が自然に許容されるのです。
これは、リアルな友人関係に近い感覚でもあります。
深すぎず、浅すぎず、自分らしい関わり方を選べる環境こそが、心地よさを生む理由なのかもしれません。
「選ばれる」より「話せる」を大切にする選択肢
会う前に心を知ることが、中高年には大事
マッチングアプリでは、写真や年齢、スペックが最初の印象を左右します。
しかし中高年にとって本当に大事なのは「見た目や条件」ではなく「安心して話せるかどうか」「人として信頼できるかどうか」ではないでしょうか。
特に人生経験を重ねた世代にとって、最初に重視したいのは“見た目”ではなく“中身”。
言葉のやりとりを通して相手の価値観や性格を少しずつ知る──そんなプロセスが、無理のないつながりを育ててくれます。
だからこそ「すぐ会う」「恋愛前提で話す」ことを求められる出会い方ではなく、会う前に心を知るような入り口が必要なのです。
まずはSNSなどで「話す」ことから始める。それだけで、出会いのストレスは大きく減らせます。
つながりの第一歩は「共通の話題」から
「何を話せばいいかわからない」「初対面は緊張する」──そんな不安は、年齢に関係なく誰もが持つものです。
でも、ちょっとした共通点があるだけで会話は自然と生まれます。
たとえば、同じ地域に住んでいる、ペットを飼っている、昔好きだった音楽が一緒──
そんなささやかな共通点が、“話してみようかな”という気持ちにつながります。
SNSやチャットサービスの多くは、趣味や関心でつながることができる仕組みを持っています。
それが「話題のきっかけ」を自然に用意してくれるため、最初の会話にハードルを感じにくいのです。
つながりの第一歩は、必ずしも自己紹介や挨拶から始まらなくてもいい。
共通の話題という“橋”があることで、言葉のやり取りはずっとスムーズになります。
雑談や悩み共有が関係性を育てる土台になる
「今日は寒いね」「最近こんなことがあってさ」──そんな何気ない雑談こそ、人間関係のスタート地点になります。
特に中高年の交流では、堅苦しい話よりも“ゆるい話”のほうが、長く続く関係性を築きやすい傾向があります。
また、ちょっとした体調のこと、家族の悩み、過去の経験などを話せる場があるだけで、自分を押し殺さずにいられるようになります。
「言葉にする」「誰かが聞いてくれる」──それだけで、心がふっと軽くなることも多いのです。
雑談や悩みの共有は、相手と“似た感覚”を持っていることに気づくきっかけにもなります。
この小さな共感の積み重ねが、無理のない関係性を育て、孤独感をやわらげてくれるのです。
マッチングアプリではなく、まずは「話すこと」に重きをおいた入り口を選ぶ。
その選択が、自分らしい人間関係を見つけるための最初の一歩になるかもしれません。
まとめ|「恋愛に踏み切れない」自分を責めなくていい
気持ちのステップは人それぞれでいい
恋愛に踏み切れない自分を、「年齢のせいだろうか」「気が弱いのかもしれない」と責めてしまう方がいます。
でも、誰かとつながる気持ちに“正しいステップ”はありません。
「今はまだ人と話すだけで精一杯」
「気持ちを向ける余裕がない」
それもすべて、ごく自然な心の状態です。
若い頃のように勢いで動けないのは、慎重さや誠実さを持つようになったから。
だからこそ、ゆっくりでも“心から安心できる相手”を見つけることができるのです。
SNSやチャットは、“安心できる準備期間”になる
いきなり恋愛や再婚を意識するより、まずは会話を通じて「人とのやりとりを取り戻す」ことから始めてもいい。
SNSやチャットは、そんな“準備期間”として活用できる場です。
誰かとやりとりをする中で、自分がどういう言葉に安心するのか、どんな関係を心地よく感じるのかが少しずつ見えてきます。
それは、焦らずに人との距離を測れる、大人だからこそのアプローチです。
そして、気づけば「また話したい」「この人ともっと話してみたい」と思えるようになる。
その自然な流れこそが、自分らしい“次の一歩”につながっていくのです。
「話すことから始めたい」あなたにこそ、合った方法がある
「恋愛はまだ考えられないけれど、誰かと話したい」
そんな気持ちを持っている人は、実はとても多くいます。
だからこそ、“話すことから始めたい”と感じているあなたの感覚は、決して特別でも、遅れているわけでもありません。
今は、恋愛や出会いにとらわれないSNSやチャットの選択肢が増えています。
趣味や地域、世代を軸にしたサービスもあり、まずは「話すだけ」で使い始めることができるのです。
誰かに“選ばれる”ために頑張るのではなく、自分が“話したいと思える誰か”とつながる。
その選び方こそが、年齢に縛られず、これからの毎日を穏やかにしてくれる一歩になるのではないでしょうか。